現在、日本人の6人に1人が患っていると言われる糖尿病は初期症状に気づきづらく、症状が出たときには足の切断、透析、目がほとんど見えなくなるなど、深刻な状態まで進行してしまう可能性もある病気です。実は、体はさまざまな「SOSサイン」を初期段階から出しており、特に「手」にその予兆が表れることをご存知でしょうか。今回は、糖尿病が引き起こす手の症状や危険な初期サイン、そして未病の段階で早期発見する”裏ワザ”について、舛森(ますもり)先生に詳しくお話を伺いました。
※26年4月取材。

監修医師:
舛森 悠(YouTube医療大学)
2019年旭川医科大学卒業後、札幌にて初期研修をおこない、函館稜北病院総合診療科へ。北海道内の3次救急を担う救命救急センターなどを経て、現在は千葉大学大学院 医学薬学府 先進予防医学共同専攻 博士課程にて研究に従事。並行して北海道での地域医療に貢献し、登録者86万人を誇る「YouTube医療大学」を運営。一般社団法人とまりぎケア代表理事、総合診療専門医、新家庭医療専門医、認知症予防専門医、医師会認定産業医。
≫【放置厳禁】知らないと後悔する糖尿病『手』のSOSサイン【注意な合併症】初期症状を現役医師が簡単解説します。手のしびれは危険信号!? まず注意したい4つのSOSサイン
SOSサイン1:糖尿病3大合併症の1つ「末梢神経障害」
編集部
糖尿病というと「喉が渇く」といったイメージがありますが、実は「手」にもSOSサインが表れるというのは本当でしょうか?
舛森先生
はい、本当です。
糖尿病による手のしびれを「糖尿病性末梢神経障害」と言います。「末梢」とは体幹から最も遠い部分のことで、糖尿病性末梢神経障害では指先や足先などの神経から障害され、しびれのほか、まるで皮1枚かぶった手袋を常につけているように感覚がほとんどなくなったり、焼けるような痛みを感じます。糖尿病患者さんの約半分が発症していると言われる、糖尿病3大合併症のなかでも一般的な症状です。
編集部
なぜ指先や足先ばかりがしびれてしまうのでしょうか?
舛森先生
糖尿病を発症すると血液中の糖分がタンパク質とくっつくことで「AGE(終末糖化産物)」という物質が生まれます。これが血管の壁を傷つけて動脈硬化を進行させます。
ヒトの神経は動脈と並行して走行しています。糖尿病による動脈硬化は細い血管から障害されるため、細い血管が走っている指先や足先、そしてその横を通っている神経から障害されていくというわけです。また、血糖値が高いこと自体が神経細胞の炎症を起こすとも考えられています。
編集部
細い血管がダメージを受けやすいのですね。
舛森先生
そのとおりです。なお、糖尿病3大合併症には神経障害のほかに「腎臓の障害」と「目の障害」があります。腎臓とはいわば細かい血管が張り巡らされた血管の集まりで、目の血管も非常に緻密です。そのため、細い血管が通っているこれらの臓器から障害が起こります。
合併症の進行を抑えるためには、糖尿病と診断されてからしっかりと血糖をコントロールすることが重要です。血糖値の平均推移を表す指標「HbA1c」を7%以下にすることを目指してください。また、「レガシー効果」という糖尿病と診断されてから最初の10年間で、いかに早く血糖値を安定させられるかも、将来合併症を起こさないために重要です。
【知っておきたい最新情報】
血糖コントロール「だけ」じゃない! 臓器を守る新しいタイプの薬の開発
糖尿病合併症の予防には血糖コントロールが基本ですが、最近は「臓器そのものを守る薬」も登場しています。腎臓や心臓を保護する新しいタイプの糖尿病治療薬が、腎不全のリスクを約2割、心臓や血管の病気を約1割減らすことが確認されました(2025年、海外の大規模研究より)。血糖値を下げるだけでなく、臓器を直接守ってくれるのは心強いですよね。糖尿病と診断された人は、「自分に合う新しい薬はありますか?」と主治医に聞いてみると今まではなかった選択肢を知ることができるかもしれません。
SOSサイン2:手根管症候群
編集部
手のしびれだけでは糖尿病が原因だと気づかずに「年のせい」と放置してしまいそうです。ほかにも手に出る症状はありますか?
舛森先生
手のSOSサインの2つ目として「手根管(しゅこんかん)症候群」があります。
手首には「手根管」というトンネルがあり、その中を「正中神経」という神経が通っています。手根管症候群は、手根管が何らかの原因で分厚くなったり狭くなったりして正中神経が圧迫され、しびれや手の動かしづらさが生じる病気です。手のひらの親指から薬指の半分までの範囲がしびれる、明け方に痛みが強くなるといった特徴があります。手がしびれているときに手を振ると楽になる「フリックサイン」が出る人も多いですね。
手根管症候群は糖尿病患者さんの約1〜2割に生じると言われていますが、正しく診断されずに放置されている人も珍しくありません。
編集部
自分が手根管症候群かどうか、チェックする方法はありますか?
舛森先生
3つのチェック方法を紹介します。
①「OK」のハンドサイン: 親指を人差し指側に持ってくる動きが難しくなるため、綺麗な丸が作れず、いびつな形の丸になってしまいます。ボタンを留めるなど、物をつまむ動作も苦手になります。
②ファーレンテスト: 手首を曲げて手の甲同士を合わせる形を作り、そのまま1分間キープします。この体勢は神経を圧迫しやすいため、1分後にしびれや痛みが強くなれば手根管症候群の可能性が上がります。
③チネル兆候: 手のひらの付け根部分(手首のあたり)を軽く叩きます。神経が刺激されてしびれや痛みが悪化する場合、手根管症候群が疑われます。
編集部
末梢神経障害との見分け方はあるのでしょうか?
舛森先生
末梢神経障害は「両手・両足の指先」にじわじわと出現するのに対し、手根管症候群は「片手」「親指から薬指の半分まで」に出ることが多いのが大きな違いです。手根管症候群は器具による固定、注射や手術といった治療法が確立されています。諦めずに整形外科で相談してください。
SOSサイン3:ばね指
編集部
手根管症候群のほかには、指がカクカクするような症状も出ることがあると聞きました。
舛森先生
はい、それが手のSOSサインの3つ目「ばね指」で、指が伸ばしづらく、あるとき突然「ビーン」とカクカク伸びる症状です。
指の曲げ伸ばしには「腱」やそれを包む「腱鞘」というコラーゲンでできた組織が関わっています。血糖値が高いと、この組織が変化して腱が圧迫され、炎症が起こります。腱鞘炎の患者さんの3分の1が糖尿病を有していたと言われるほどです。
また、痛みはないものの薬指や小指など一部の指が硬く曲がったままになる「デュプイトラン拘縮(こうしゅく)」という症状もみられることがあります。男性に圧倒的に多く、手のひらがくぼんで一部が盛り上がる見た目の変化が特徴で、自然治癒する可能性はほとんどありません。生活に支障が出る場合は手術も適応されますので、医師に相談してください。
SOSサイン4:指全体が動かしづらい「手のこわばり」
編集部
指全体が硬くなってしまう症状もあるのでしょうか?
舛森先生
4つ目の手のSOSサインが、まさに指全体が動かしづらくなる「手のこわばり」です。まっすぐ指を開けなかったり、物をしっかり握り込めなくなったりします。血液中のブドウ糖が、関節を構成するタンパク質と異常に結合することが原因で起こります。皮膚にツヤが出て突っ張張るような症状が出る人もいます。
編集部
手のこわばりをチェックする方法を教えてください。
舛森先生
2つの方法があります。1つ目は、祈るときのように手のひら同士を合わせることができなくなる「プレイヤーサイン」です。2つ目は、平らなテーブルに手のひらをペタッと合わせることができなくなる「テーブルテスト」です。一部の指だけが曲がるデュプイトラン拘縮に対し、全体的に伸ばしづらいのが糖尿病によるこわばりの特徴です。
編集部
こわばりが出てしまった場合、どうすればいいのでしょうか?
舛森先生
リハビリが有効です。ただし、他人に強くギュッと押してもらうと筋肉や腱を痛めてしまうので、「自分の力で動かせる範囲で動かす」ことが鉄則です。おすすめは、手を温めて血流を良くしながら指を動かし、その後冷やして、また温めて動かす「温冷交代浴」を取り入れたリハビリです。動かすことでむくみが取れて動かしやすくなります。痛みのない範囲で、焦らずゆっくり進めてみてください。個人差はありますが、 少しずつやってもらえれば、改善が望めると思います。
血糖値の急上昇で「皮膚が乾燥」? 手以外に表れる3つの初期症状
編集部
手以外にも、糖尿病を早期発見するためのサインはありますか?
舛森先生
はい、血糖値が急上昇したときに出やすい初期症状を3つご紹介します。
1つ目は「皮膚の乾燥や痒み」です。血糖値が高い」とは、血管の中に糖分がたくさんある状態です。高血糖状態の体は、浸透圧の関係で、皮膚下の水分が血管の中に引き込まれ皮膚が乾燥しやすくなります。乾燥によって炎症が起こるだけではなく、神経障害や腎機能悪化による尿毒症(毒素が出せない状態)が重なって、強いかゆみが出ることもあります。
2つ目は「免疫の低下」です。免疫の低下により、水虫(白癬)などのばい菌に感染しやすくなります。また、皮膚が赤く腫れ上がる蜂窩織炎(ほうかしきえん)にもなりやすく、最悪の場合は筋肉や骨まで壊死して患部の切断に至るリスクもあります。最近体調を崩しやすいという人は要注意です。
3つ目は「喉が渇く・トイレが近くなる」ことです。糖分が尿に漏れ出すと、浸透圧で水分を大量に引き寄せるため、尿の量が増えます。すると体は脱水状態になり、脳は「血液が濃くなっているから水を飲んで!」と指令を出すため喉が渇くのです。ここで甘いジュースなどをガブガブ飲んでしまうと、さらに血糖値が急上昇する「ペットボトル症候群」という悪循環に陥る危険があります。

