●聞いた人たちがどう思うかもポイントとなる
──本人に似せたAI音声について、法的には「どこまで似ているか」が問題になるのでしょうか。逆に、どのような要素が判断材料になりますか。
ご説明したように、不正競争防止法違反でも、パブリシティ権の侵害でも、まず重要になるのは、動画を見聞きした人が「ツダケンさんの声だな」「親しみのある『あの人の声』だな」と認識するかどうかでしょう。
この点、「これがダメなら、物真似や声のそっくりさんはみんなダメにならないか」という懸念も一部で聞かれます。
その背景には「声が似ている人は世の中に大勢いる。それを誰かが『本家』として禁止できるのか」「物真似という人の営みをどこまで止められるのか」という問題意識があるのでしょう。
実は、この論点は、米国ではかなり以前から裁判になっています。
たとえば1980年代には、人気歌手のベット・ミドラー(『The Rose』など)に声が似た歌手を起用し、自動車メーカーのフォードがCMを作ったところ、ミドラー側が提訴し、控訴裁はパブリシティ権侵害を認めました(確定)。
ここでも裁判所は、「聞いた人々が“ミドラーの声だ”と思ったか」を重視しています。
つまり、「ああ、これは物真似だな」と受け取られるのか、それとも「本人の声だな」と思わせてしまうのか。この違いは、AI音声をめぐる法的判断でも関連してくる可能性はあります。
●あまりに模倣が作られるとホンモノも埋没しかねない
──「これはAIの声です」とか「津田さん本人ではありません」と書いておきさえすれば、適法ということになりますか。
いえ、そうとは限りません。
これは人間の物真似との違いでもありますが、AIによる声の模倣には、もうひとつ大きな論点があります。
爆発的な速度で学習し、膨大な量を生み出せる点です。
今回の件でも、報道によると、“ツダケンさん風”の動画が短期間で大量に投稿されていたことが問題視されているようです。
仮に、津田さんが長年積み上げてきた仕事量をも上回るような“似た声”のコンテンツが、安価で大量に市場に放たれたら、声優など本職の活動にどんな影響が出るのか。
もちろん、本物の魅力はそう簡単に害されるものではありません。
とはいえ、さすがに大量の「ツダケン風コンテンツ」が市場にあふれれば、本物が埋没したり、「もう聞き飽きた」と受け止められたりするかもしれませんね。

