●AI時代特有の「希釈化」リスク
──どう考えればいいのでしょうか。
実は、作品の学習をめぐって、2024年まで文化審議会でも、これと同じことが議論になりました。
文化庁は、たとえ「◯◯風」の作品が大量・瞬時に市場に放たれることがあっても、その生成や、そのための無断学習自体は原則として許容される、という整理を示しています。
ただ、私自身も含めて、特に学習については「それは今後のAI進化やビジネスの状況によるのではないか」という意見も複数ありました。
そして昨年から、米国でも、これと似た議論が高まってきています。
これまでの人間による模倣とは異次元の規模で、AIにより「それ風」の作品や音声が大量生成される。その結果、オリジナルの存在感や市場価値が薄まり、結果としてクリエイター本人らの活動が害される──。この可能性を著作権侵害でも重視する考え方は、「希釈化論」と呼ばれています。
●「個人のがんばり」にゆだねてよいのか
──なるほど、AI固有の争点もありそうですね。
今回の訴訟では、報道を見る限り、元となった津田さんの出演作品の無断学習について、著作権侵害までは主張されていないようです。
ただ、問題の根底には、AIが社会に与える影響への強い課題意識もありそうですね。
また、先行している新聞社が生成AI検索サービス「Perplexity」を訴えた訴訟でも、こうした点は実質的な争点になっていくように思えます。
その意味でも、注目すべき裁判です。
結論の是非を超えて、新しい社会問題について、自ら裁判を通じてルール形成に挑んだ津田さん側の姿勢には、まずは敬意を表したいと思います。
同時に、圧倒的な資本力を持つ海外プラットフォームとの法廷闘争を、個人のがんばりだけにゆだねてよいのか。この点も、社会全体で議論していく余地がありそうですね。
【取材協力弁護士】
福井 健策(ふくい・けんさく)弁護士
骨董通り法律事務所 代表 弁護士・ニューヨーク州弁護士。日本大学芸術学部・神戸大学大学院・CAT ほか 客員教授。専門はエンタテインメント法・著作権法。内閣府知財本部・文化審議会ほか委員。デジタルアーカイブ学会副会長。「18歳の著作権入門」(ちくま新書)、「エンタテインメント法実務」(編著・弘文堂)、「インターネットビジネスの著作権とルール(第2版)」(編著・CRIC)など知的財産権・コンテンツビジネスに関する著書多数。2026年、第76回芸術選奨文部科学大臣賞受賞(芸術振興)。X:@fukuikensaku
事務所名:骨董通り法律事務所
事務所URL:http://www.kottolaw.com

