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猫とはたらくvol.05:猫は、帰るべきところへ私を繋ぐ「錨」。作家・井上奈奈さんが語る、猫との暮らし

猫とはたらくvol.05:猫は、帰るべきところへ私を繋ぐ「錨」。作家・井上奈奈さんが語る、猫との暮らし

絵本作りと建築との共通項

アトリエの作業スペースには、パレットを重ねた作業台。 −−井上さんの絵本の作り方は、毎回試行錯誤されているのですか?それとも決まった道筋があるイメージでしょうか。 井上:まず文章・ストーリーができあがったら、ラフ本を製作した上で、お付き合いのある出版社に見せて、一緒に作り始めるという順番で進みます。 絵画作品だと、展示をして、誰かがその絵を購入してしまったら、その絵と作者はもう一生会うことがなかったりします。その点、本は完成してからがスタート。私は学生時代に建築を専攻していたのですが、その点が「建築」と「本」は似ているように感じています。他者と協力しながら作っていく過程や、素材選びが大切なこと、立体であること。そして、完成してから作品の命が始まるところも重なります。1冊目、2冊目と制作していくうちに、「本というフィールドで、建築をやっていきたい」思うようになりました。 −−ストーリーというか、読者が歩く動線ができている状態なんですね。間取り図みたいな位置づけ? 井上:そう、間取り図というよりも、設計図ですね。物語は書こうと思っても、書けないんですよ。初めのフレーズが頭に浮かんで、ぼんやりと描きたい世界が見えてきたら、一気に書き上げることができます。ただ、初めのフレーズが出てくるまでの期間はとっても長いです。初めの頃は、出版社との繋がりもほとんどなかったから、本を作りたいと思っても、刊行してくれる出版社を探すのが大変でした。 今では「次の新作は、うちで出してください」といっていただくことが増えましたが、やっぱり「書いて」と依頼されて書こうとしても、出てこないのは相変わらずです。どうしても書かなきゃならないという切実さがないと、私は作品にはできないみたいです。 作業デスクの下には、キリグ専用のトンネル −−ストーリーができあがるプロセスは、どんなイメージですか。例えば、たまって膨らんでいくようなイメージなのか、それともフッと出てきたものを引っ張っていたら出てくるような感じなのか……。 井上:後者の方が近いかな。 最初のフレーズが決まったら、いろんな引き出しが開いていくような感じで、一気に書き進めます。最初のフレーズとかイメージがそのまま採用されることが多いですね。細かな微調整は、編集者さんと一緒にやっていきますが、自分のなかの引き出しにあったもので最初から最後まで書いてしまいます。 −−井上さん自身の体験と、ひも付いている部分は多いですか? 井上:物語のきっかけはやはり自身の体験と紐付いていることが多いです。だけどすべてが本当に起こったことを書いているわけではありません。体験をいかに物語として、読者に届く形に昇華するかを大切にしています。 「猫」を題材とした絵本が多いですが、これは単に一番身近な生き物が「猫」だからでしょう。もとから猫の物語を書こうとして取り組んでいるわけではなくて、気が付いたら「猫の物語になっていた」という感覚が近いです。

キリグとの“共犯”で作り上げた「一番軽やか」な『猫の悪口』

−−その意味では、『猫の悪口』はちょっと毛色が違う立ち位置ですよね。 井上:『猫の悪口』は、キリグの日常そのままを描いた作品です。この本は、これまでの作品の中で「一番軽やかな本」になったなと思っています。祖父江慎さんにブックデザインを依頼したのも、自分にとっては異質な本だったから、“異質な人”にお願いをしたいなっていう気持ちが強かったからです。 −−祖父江さんには、どういう経緯で依頼されたのですか。 井上:初めてお目にかかったのは、2023年。「造本装幀コンクール」の受賞式でした。偶然、祖父江さんも同じコンクールで別の賞を受賞されて。みんなかしこまって賞状を受け取りに行くのに、そのときの祖父江さん、どんなだったと思います? スキップを踏みながら行かれたんですよ。そのかわいい後ろ姿に、会場が笑いに包まれて。「おじさんの姿をした妖精だ!」って、私も心を射抜かれちゃって。いつか一緒にお仕事できればと思いました。 その直後に、『猫の悪口』の企画が持ちあがり、この本を祖父江さんにお願いしよう!と思いました。 もともと『猫の悪口』は、私が文章を担当し、絵は別の方に描いてもらう予定でした。編集者が祖父江さんに装幀の依頼に伺った時に、そのラフ本をお渡ししたら「(ブックデザインを)やるよ。でも、絵は自分で描いたほうがいいね」と言われたそうです。 −−井上さんの絵は祖父江さんもご存じだったんですね。 井上:そう。「絶対、自分で描くべきだよ」と。当初の絵を描いてもらった方には話が覆ってしまい申し訳なかったのですが、最終的に出版社の意見もあって、私が絵も文章も担当することになりました。 装幀も元々は、ペーパーバックのような安価で簡易な本を作るイメージだったんですが、祖父江さんが加わって話が進むうちに、ありとあらゆる可能性が広がり、なおかつ誰も止めない(笑)。それを受け入れてくれる出版社さんだったおかげですね。丸々一年を掛けて完成しました。 −−この本にはいろいろな造本的なギミックが凝らされていますよね。作り手として難しかったところはありましたか? 井上:「枕折り」になっている部分があって、閉じているときも開いたときも、絵が成立するようになっています。絵と絵を組み合わせて、別の物語が繋がるように作るのが、自分のなかではすごく難しくて。 例えば、このページだと山の稜線が、開いたときにはテレビ画面の枠になるように描いています。閉じているとき開いたときの両立を実現しつつ、全体としても破綻のないように構成していくのが大変でした。単純な絵なんだけど、いろいろ考えながら進めました。今までの絵本で一番、描くのは難易度が高かったかもしれません。でもおもしろかったです。 初めに造本の仕様が決まって、そこに物語を落とし込んでいく、という制作の流れも初めてでした。 −−敷地が決まっていて、そこに合わせて設計するみたいなものですね。 井上:そう、建築と一緒だなって。しかも不整形地でね(笑)。
配信元: 猫ジャーナル

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