日常でも取り入れやすい「コーヒー」と「昼寝」が、認知症のリスク低下と深く関係している――。そんな事実が近年分かってきたことをご存じでしょうか? 認知症は今や、65歳以上の人の5人に1人が発症すると推計されています(厚生労働省 新オレンジプラン推計、2025年時点)。一度進行してしまうとなかなか元に戻ることがなく、有効な治療薬はいまだ開発途上です。認知症になっても生きやすい社会を作っていくことも大事ですが、認知症にならないに越したことはありません。今回は、認知症になる一歩手前のサインから、リスクを高めないためのコーヒーと昼寝の活用法まで、舛森先生に詳しく聞きました。
※記事中の症例は、プライバシー保護のため仮名で構成しています。

監修医師:
舛森 悠(YouTube医療大学)
2019年旭川医科大学卒業後、札幌にて初期研修をおこない、函館稜北病院総合診療科へ。北海道内の3次救急を担う救命救急センターなどを経て、現在は千葉大学大学院 医学薬学府 先進予防医学共同専攻 博士課程にて研究に従事。並行して北海道での地域医療に貢献し、登録者86万人を誇る「YouTube医療大学」を運営。一般社団法人とまりぎケア代表理事、総合診療専門医、新家庭医療専門医、認知症予防専門医、医師会認定産業医。
認知症は単なる物忘れではない? 発症のメカニズムと意外なリスク
編集部
「なんだか最近物忘れが心配で……」と不安になる人は多いと思いますが、そもそも認知症とはどのような病気なのでしょうか?
舛森先生
認知症の基本的な定義は、単なる物忘れではなく、「脳の神経細胞が障害を受けて記憶力や判断力などが低下し、認知機能が低下することで日常生活に支障をきたした状態」です。つまり、普段の生活で特に困らない程度の物忘れであれば、それは認知症ではないと思って問題ありません。
私がよく外来でお話しするのは、自ら「物忘れが心配で」と相談に来る人の多くは認知症ではないということです。認知症が進行してくると、自分が物忘れをしていること自体を自覚していない人が多いので、家族と一緒に来院する人が多いのが特徴です。
編集部
なぜ脳の神経細胞が障害を受けてしまうのでしょうか?
舛森先生
仮説の1つとして、脳の神経細胞の代謝産物、簡単に言うと「老廃物(ゴミ)」のようなものが発生することが挙げられます。それが「タウタンパク」や「アミロイドβ」と呼ばれるものです。これらの脳の老廃物が神経細胞に蓄積し、
細胞を破壊しているのではないかと考えられています。
しかし実際には、認知症を発症していない人の脳を解剖して顕微鏡で見た場合にも、これらの物質の蓄積が確認されています。ですので、程度の問題なのか、ほかに原因があるのか、今もなお解明に向けた研究が多数実施されている段階です。
編集部
認知症の発症リスクには、どのようなものがあるのでしょうか?
舛森先生
主要なリスクとして肥満、高血圧、喫煙、糖尿病などがあります。そして特に興味深いのが「孤独・孤立の問題」です。少子高齢化が進み地域のつながりが減る中で、孤立感を感じている人は認知症のリスクが約2倍高かったという研究結果もあるほどです。
また、運動習慣に関しても非常に興味深いデータがあります。1人で黙々と運動していた人よりも、足腰が痛くて運動はしていなくても「運動サークルに参加して人とのおしゃべりを楽しんでいる人」のほうが、将来要介護状態になるリスクが低かったのです。つまり認知症予防には、人とのつながりを維持して話すことが、単に運動するよりも重要ということです。
見逃さないで! 認知症の”一歩手前”を知らせる7つのサイン
編集部
認知症の初期症状や、その一歩手前の症状として、どのようなサインに気をつければよいのでしょうか?
舛森先生
主な7つの症状を、具体的な症例を交えてご紹介します。当てはまるものがないか、ぜひチェックしてみてください。
1つ目は「短期記憶の障害」です。例えば60代の山田さんは、朝食を摂ったことを忘れてしまい、奥さんに「まだ食べていない」と言い張ってよく喧嘩になると夫婦で来院しました。このように、さっきしたことを忘れてしまうのが短期記憶の低下です。一方で山田さんは、昔勤めていた仕事のことは鮮明に覚えていました。すなわち「昔のことを覚えている」と「認知症ではない」はイコールではないので注意が必要です。
2つ目は「判断力の低下」です。70代の佐藤さんは、真夏に厚手のセーターを着て病院へ行こうとし、娘さんに止められて着替えさせられたそうです。このように、季節に合った服を選ぶ、移動手段を適切に選択するといった判断が難しくなってきます。
3つ目は「場所や時間の感覚の低下」です。これは感覚を司る頭頂葉という部分の機能が低下することによります。
40年間同じ場所に住み続けていた65歳の鈴木さんは、突然自宅への帰り道が分からなくなり、家族に電話をしました。昔の記憶はなくなりづらいものの、頭頂葉が萎縮することで、慣れ親しんだ道でも一度間違えたり寄り道をすると分からなくなってしまうことがあります。
編集部
言葉や行動の変化もあるのでしょうか?
舛森先生
はい、4つ目は「言葉遣いや理解の変化」です。長年読書が好きだった68歳の高橋さんは、文字を追うのが疲れると新聞すら読まなくなり、日常で「あれ」「それ」という言葉が増えたと周囲から心配されていました。本を読んだり、動画を普通のスピードで理解するなどの「言葉を扱う処理機能」自体が低下している可能性があります。
5つ目は「物の置き忘れ」です。短期記憶が失われやすいため、さっき物をしまった場所が分からなくなります。一方で認知症の人は「しっかりしなくちゃ」という意識が強いので、財布を盗まれては困ると、自分にしか分からない場所に保管します。そしてその記憶がすっぽり抜け落ちると、いつものバッグに財布がないため「誰かが盗ったに違いない」と思わざるを得なくなり、家族とのトラブルになってしまうのです。
編集部
気持ちの面での変化はいかがですか?
舛森先生
6つ目は「意欲の低下」です。家族が「うつ病になったのかもしれない」と勘違いして受診することも多いです。本人は、苦手になってきたことを人に知られたくないという自尊心から、楽しんでいた趣味の活動(囲碁サークルやお茶の教室など)に行かなくなり、家から出ることすらおっくうになってしまうのも認知症特有の症状です。
7つ目は「段取りを取るのが苦手になる」です。
料理が得意だった67歳の木村さんは、料理の順序が分からなくなり、火にかけたお湯を忘れて火災報知器を作動させてしまいました。
その後自信を失い目玉焼きなど簡単なものしか作らなくなりました。実は日常生活の動作の中でも料理は特に複雑な作業です。ただし、家族が一緒に材料を買って作ったり、簡単な作り方を写真付きでキッチンに貼るなどの工夫次第で料理を続けられることも可能です。

