●被害者が被害を自覚しにくい構造
調査結果を分析した一般社団法人「社会調査支援機構チキラボ」の特任研究員、中村知世さんは会見で、今回の調査から「ハラスメントの複合化」が見えてきたと指摘した。
2024年に実施した調査では、表現者の14.6%が性的接触被害、10.9%が暴力被害を経験していた。
しかし今回の聞き取り調査では、それらが別々に起きるのではなく、一つのハラスメントをきっかけに別のハラスメントが重なり、深刻な状況へ発展していく実態が確認されたという。
また、被害者が被害を自覚しにくい構造も浮かび上がった。
加害者から「あなたのためを思って指導している」と言われたり、周囲から「乗り越えるべき問題だ」と諭されたりすることで、被害者が自らを責めるようになるケースが目立ったという。
中村さんは、こうした心理的操作を「ガスライティング」だと指摘する。
「被害者が『自分が悪いのではないか』『能力不足なのではないか』と思い込み、被害の自覚が遅れてしまう」と説明した。
●5年間で進んだ業界の取り組みも
調査団は2020年に発足し、映画監督やアーティスト、俳優らを中心に、ハラスメントやジェンダーバランスに関する調査・提言を続けてきた。これで活動を終了する。
今回公表したインタビュー調査白書は、その活動の締めくくりとなるという。
会見では、この5年間での変化についても報告があった。
調査団のメンバーで映画監督の深田晃司さんはオンラインで参加し、映画業界について「長時間労働や契約関係の弱さ、男女差別などにより、表現分野の中でも特に深刻な状況だった」と説明した。
一方で、近年は、日本映画適正化機構による認定制度やフリーランス法の施行、インティマシー・コーディネーターの普及、ハラスメント研修の実施など改善の動きも進んでいるという。
ただし、「業界によっては足並みがそろっていない」とも指摘し、さらなる取り組みの必要性をうったえた。
また、深田さんは「誰もが表現に携わることができるという当たり前のことができなくなっている状況は大きな問題だ」と指摘した。
「表現とは、社会に埋もれがちな一人ひとりの声を可視化し、民主主義に反映させる営みだ。表現の現場のハラスメントやジェンダーバランスの問題は、表現の自由にも関わる」
今後、これまでの調査報告はウェブ上で公開を続けるほか、学生向けハラスメント防止リーフレットの配布は芸能従事者協会に引き継がれる予定だ。

