糖尿病と診断された患者さんのなかには、将来的に透析治療が必要になるのではないかと深い不安を抱えている方が少なくありません。実際に、日本国内で透析を受けている患者さんの数は年々推移しており、その原因として一番多いのが糖尿病による腎臓へのダメージです。しかし、医学の進歩により、早期に適切な治療と生活習慣の改善を行うことで、透析を回避し、腎臓の機能を長期間にわたって維持することが十分に可能となってきました。
本記事では、糖尿病がなぜ腎臓の機能低下を引き起こすのかという根本的なメカニズムから、糖尿病性腎症が進行していくステージの詳細、透析が必要となる具体的な状態、そして透析を回避するために今日から実践できる治療や生活のポイントまでを解説します。

監修医師:
高宮 新之介(信州大学医学部附属病院 呼吸器外科)
昭和大学(現・昭和医科大学)卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、日本外科学会専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事する中、医学博士を取得。昭和大学横浜市北部病院(現・昭和医科大学横浜市北部病院)呼吸器センターを経て、現在は信州大学医学部附属病院 呼吸器外科に勤務。肺がんを中心とした呼吸器外科診療、低侵襲手術、肺がん術後QOL、術前心理状態と術後疼痛に関する研究に取り組む。日本外科学会専門医、日本呼吸器外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。
糖尿病と透析の関係

なぜ糖尿病が透析につながるのですか?
糖尿病が透析治療につながる一番の理由は、慢性的な高血糖状態が腎臓の微小な血管に深刻なダメージを与え続けるためです。この状態を医学的には糖尿病性腎症と呼びます。ダメージが数年から十数年という長い単位で蓄積することで、最終的に腎臓は老廃物をろ過する能力を完全に失います。自力で血液をきれいにできなくなるため、人工的に血液を浄化する透析治療が不可欠な状態に陥ってしまいます。このように、高血糖による物理的な圧力と、炎症や酸化ストレスという化学的なダメージの二重の負担が、透析への道を進行させる大きな原因となります。
糖尿病で透析が必要になるのはどの段階ですか?
糖尿病性腎症は初期から末期までいくつかのステージに分類されますが、透析治療が必要となるのは、もっとも進行した第5期と呼ばれる段階です。この時期は透析療法期あるいは末期腎不全とも呼ばれ、腎臓の本来の機能がほぼ失われた大変危険な状態を指します。
糖尿病の患者さんのうち何割程度が透析にいたりますか?
日本では糖尿病で治療を受けている方が552.3万人いるとされています。そのうち、糖尿病性腎症が原因で新たに透析を始める人は年間約1.4万人です。糖尿病の人全員が透析になるわけではありませんが、日本で透析になる原因としては糖尿病性腎症が最も多く、新規透析導入の約4割を占めます。参照:
『わが国の慢性透析療法の現況 2024』(日本透析医学会)
『糖尿病性腎症重症化予防の取組』(厚生労働省)
糖尿病腎症の進行とステージ

糖尿病腎症とはどのような病気ですか?
糖尿病性腎症は、糖尿病の三大合併症のひとつに数えられる、大変重要な病気です。三大合併症には、腎症のほかに眼の網膜が傷つく糖尿病網膜症や、手足のしびれを引き起こす糖尿病神経障害がありますが、腎症はそのなかでも生命に直結する深刻な影響をもたらします。
糖尿病腎症はどのように進行していきますか?
糖尿病性腎症は、自覚症状がない状態から以下の5つのステージ(病期)を経て、ゆっくりと進行します。第1期(腎症前期)では尿の異常は検出されず、自覚症状もありません。しかし、腎臓内部では高血糖による負担がかかり始めています。
第2期(早期腎症)になるとごくわずかなたんぱく質である微量アルブミンが尿に漏れ出し始めます。自覚症状はありませんが、治療により正常な状態に戻せる可能性が残されている大変重要な時期です。
第3期(顕性腎症)は一般的な尿検査でもわかるほど多量のたんぱく質が尿に漏れ出ます。この頃から、足や顔のむくみ、血圧の上昇といった症状が現れ始めます。
第4期(腎不全期)は腎臓のろ過機能が著しく低下し、老廃物が蓄積し始めます。強い疲労感やだるさ、貧血、食欲不振などの症状がはっきりと現れるようになります。
第5期(透析療法期)となってしまうと腎臓の働きがほぼ失われ、生命を維持するために人工透析や腎移植が必要となる最終段階です。
糖尿病腎症の初期症状を教えてください
糖尿病性腎症の初期である第1期や第2期の段階には、患者さん自身が自覚できる症状がありません。痛みやだるさ、尿の異常など、目に見える変化がいっさい起こらないため、健康診断などで尿に微量のたんぱく質が混じっていると医師から指摘されても、放置してしまう方が大変多くいらっしゃいます。しかし、この微量アルブミン尿こそが、腎臓からの最初のSOSサインであり、病気の進行を食い止めるための大きな機会でもあります。
自覚症状がないまま糖尿病腎症が進行することはありますか?
はい、あります。むしろ、ほとんどの患者さんが自覚症状のないまま病気を進行させてしまいます。腎臓は医学の世界で沈黙の臓器と呼ばれており、予備能力が大変高い臓器です。腎臓には約200万個もの糸球体が存在するため、一部の糸球体が壊れても、残った元気な糸球体が無理をして働くことで、全体の機能を維持しようと代償的な働きをします。そのため、半分以上の機能が完全に失われるまで、身体の不調として表面化しません。
参照:『糖尿病性腎症重症化予防の取組』(厚生労働省)

