●「小学4年生」から対象、2027年全校展開へ
──具体的にどういう制度なのでしょうか。
今回の標準化では、小学校高学年(日本の4〜6年生相当)からのいじめを対象に、他の懲戒措置がすべて効果を持たなかった場合の「最後の手段」として鞭打ちを適用できるとされました。
2027年までに全校で体制を整える方針とされており、順次導入が進む見込みです。
実施できるのは校長、または校長から権限を与えられた教員に限られます。鞭打ち後にはモニタリングやカウンセリングの実施も義務付けられています。
──保護者はどのように受け止めていますか。
私の周囲でも、学生時代に鞭打ちを含む体罰を受けた経験があるという大人は少なくありません。そのため、おおむね受け入れられている印象です。
ただし、いじめに対する鞭打ちの対象が男子生徒に限られている点については、疑問の声も少なくありません。
男子生徒限定の理由としては、刑事訴訟法で女性への鞭打ちが禁じられているため、学校でも同様の扱いをしているという説明があります。
しかし、学校での鞭打ちは刑事罰としての鞭打ちとはまったく性質が異なり、軽い鞭を用いるため傷が残るようなものではありません。
そのため、女子生徒によるいじめに苦しむ被害者や保護者からは「なぜ男子だけなのか」という反発が出ても不思議ではないと考えられます。
●「抑止」を重視する社会──日本が選ばなかった道
──日本からすれば、驚きの制度です。
シンガポールの学校では近年、「無視」や「攻撃的な投稿」などオンライン上のいじめが大きな問題になっています。
また、性的な動画や画像を送らせ、それを共有するといった陰湿な行為も指摘されています。
もちろん、それだけではありません。相手にケガを負わせるような暴力的ないじめも存在します。
私自身、現地の学校に子どもを通わせる日本人保護者から、外国人男子生徒による暴力被害について相談を受けることが多くあります。その中には、数ヶ月の治療を要する深刻な暴行もありました。
詐欺やいじめへの対応として鞭打ちが選択される背景には、シンガポール社会の価値観が根本にあると思います。
抑止によって犯罪や問題行動を減らし、社会秩序を維持する。その考え方が法制度だけでなく、市民の意識にも染み込んでいます。だからこそ、鞭打ちや死刑も「有効な手段」として受け入れられているのでしょう。
こうした発想は日本ではなじみが薄いかもしれません。しかし近年は、いじめに対する怒りから、加害者の個人情報や暴行動画を拡散する動きもみられます。
手段は異なっても、強い制裁によって問題を解決しようとする発想そのものは、決して無縁とは言い切れないのではないでしょうか。
【取材協力弁護士】
三好 健洋 (みよし・たけひろ)弁護士
日本人弁護士として唯一、シンガポールのすべての法律を扱うライセンスを持つ。2014年米国コーネル大学大学院卒業(経済・金融専攻)、外資系投資銀行で勤務。その後、シンガポールの法科大学院を卒業し、シンガポール法司法試験に合格。2019年シンガポール法弁護士登録。現在は、日系唯一のシンガポール法弁護士事務所 Lotus Law LLCにて代表弁護士。
事務所名 :Lotus Law LLC
事務所URL: https://lotusgroup-asia.com/

