●失われた父親の威厳
発覚後、家庭内での夫の立場も変わった。
事情を知る子どもたちは、外でパトカーのサイレンが鳴ると、「ほら、警察がパパを呼んでるよ」とからかうという。
かつてあった父親としての威厳はもうない。もっとも、夫にも変化はあった。
Aさんは肉料理が苦手だ。以前は、家族のために肉料理を作っても、自分が食べられるものがなく、Aさんが愚痴をこぼしても、夫は「買ってくればいい」と突き放していた。
それが今は違う。夫のほうから「ママの食べるものはあるの」と気にかけ、刺身を買って帰るようになった。
仕事で疲れると先に寝ていたのに、洗濯物を畳むなど家事にも手を伸ばすようになった。促されて「愛してます」とLINEを送ってきたこともある。
もしかしたら、体を動かしてないと家の中に居場所がないのかもしれない。
●「次の出張には私もついて行く」
「雨降って地固まるじゃないけど、お互いに思いやりが芽生えたところはあると思います」
そう話すAさんだが、関係が元通りになったわけではない。許したわけでもない。
夫は最近になって、再び出張へ行く話をするようになった。Aさんは、そのときは自分も同行するつもりだという。
裏切りの記憶は消えず、許すことはできない。怒りも完全にはなくならない。それでも、ともに生きていく。Aさん一家の「再構築」は、いまも続いている。
●離婚問題にくわしい弁護士「風俗利用が即離婚の理由にはならないが」
離婚問題にくわしい原口未緒弁護士は、配偶者の風俗利用が発覚しただけでは、直ちに法的な離婚事由にはなりにくいと指摘する。
「『不快だからやめてほしい』と何度も伝えているにもかかわらず、それを繰り返すような場合には、離婚事由になりうると考えられます」
では、再構築を選んだ妻たちは、どのような苦しみと向き合うことになるのだろうか。
「再構築を選んだ場合、最も苦しむのは、自分自身の気持ちとの向き合いです。その苦しみはAさんにしかわからないものです。 なぜ自分がこんなにも苦しいのか。カウンセラーなどの力も借りながら、時間をかけて紐解き、まず自分自身を癒していくしかありません。 誰かが穴埋めできるものではないのです。過去は変えられない以上、自分が本当に望む未来へ目を向けることが大切です」
一方、夫側はどのような姿勢が求められるのか。
「ご主人にできるのは、開き直らず、相手のせいにもせず、価値観が違ったとしても『そう感じるのだ』と受け止めながら、根気強く耳を傾けることです。Aさんがご主人の優しさに気づいておられるように、愚直なまでに誠実な姿勢を続けていけば、その思いが相手に伝わる日も必ずやって来ると思います」
●「いい時もあった夫婦だからこそジレンマがある」
配偶者の風俗利用や不貞は、当事者にしかわからない深い苦しみを残す。離婚という決断をしたとしても、その痛みが消えるとは限らない。
別れるか、やり直すか。どちらを選んでも平坦な道ではない。同じ岐路に立たされたとき、私たちはこの夫婦から何を学べるだろうか。
最後にAさんは、言葉を探しながらこう語った。
「子どもがいると、簡単には縁を切れません。いい時もあった夫婦だからこそ、ジレンマがあるんです。性欲は理性に負けるんでしょう。でも、思いとどまる機会は何度もあったはずなんです」
【取材協力弁護士】
原口 未緒(はらぐち・みお)弁護士
東京弁護士会所属。心理カウンセリング・アカシックリーディングも併用しながら、こじらせない円満離婚の実現を目指します。著書『こじらせない離婚―「この結婚もうムリと思ったら読む本」(ダイヤモンド社)
事務所名:法律事務所mio.
事務所URL:https://www.mio-law.com/

