ドクロが見えたあとで
《大使たち》下段の棚の詳細。地球儀、リュート、讃美歌集、算術書が並ぶ。知識と教養を示す道具の中に、切れた弦という不穏なサインが紛れ込んでいる。, Public domain, via Wikimedia Commons.
ドクロが見えたあとで正面に戻ると、二人の堂々とした顔が少し切なく見えてきます。地球儀や天文機器などの装飾品が、ただ知識や権力を示す道具には見えなくなるのです。
どんな人間であっても、どうしても動かせないものがある。それが死です。
ただし、この絵はそれだけで終わりません。左上の緑のカーテンの陰には、小さなキリストの磔刑像が描かれています。足元には死を示すドクロ。その片隅には、その先を示す十字架。
ホルバインは避けられない死と、そして希望を同じ画面に置いていたのです。限りある時間をどう使うのか。誰と向き合い、何を大切にするのか。
足元のドクロと、片隅の十字架を同時に描くことで、芸術家はその宿題を私たちに残したのです。
