11日(日本時間12日)にいよいよ開幕するサッカーW杯。日本代表が熱戦を繰り広げるダラスのスタジアムには「天然芝」が用意されたが、実はその裏で、本来の主(あるじ)であるはずのNFL選手たちがかつてないほどの大ブーイングを上げている。W杯の熱狂の影で勃発した、数兆円規模のビジネスと選手のプライドが激突する知られざる“場外戦”の全貌とは——。
サッカーW杯が11日(日本時間12日)、いよいよ開幕を迎える。森保ジャパンが1次リーグで2試合を戦う決戦の地、ダラスのAT&Tスタジアム(大会期間中の呼称はダラス・スタジアム)でも本番に向けた熱気が最高潮に達している。今大会のダラスは、全会場の中で最多となる合計9試合が開催される超重要拠点だ。
しかし、この世界的な祭典の裏で、同スタジアムを本拠地とするNFLダラス・カウボーイズをはじめとするフットボール界の間に、かつてないほどの不満と怒りが鬱積しているという。米地元テレビ局「FOX 4 Dallas-Fort Worth」などの報道から、その深刻な「場外戦」の背景が見えてきた。
「アメリカズチーム」のプライド激怒?たまに来るだけのサッカーへの手厚いもてなし
全米で絶大な人気を誇り「アメリカズチーム(America’s Team)」と称されるカウボーイズ。その本拠地が、たまにしか来ない「サッカー」のために信じられないほどのしわ寄せを食らっている。
今回のW杯開催にあたり、FIFA(国際サッカー連盟)が規定するピッチ幅(約75ヤード)を確保するため、スタジアムは元のNFL用フィールドを約2フィート(約60cm)もかさ上げし、下層の豪華なスイートルームや座席の一部を一時的に撤去するという、信じられない規模の大規模な改装工事を余儀なくされた。
さらに、FIFAが絶対条件とした「天然芝」を満たすため、巨額の費用を投じて育成用の特殊なライトシステムまで導入し、最高級のピッチを敷き詰めたのだ。本業であるアメリカンフットボールを差し置いて、サッカーのためにスタジアムの構造まで変えて「緑のカーペット」を用意する――。カウボーイズ側がこれを面白く思うはずがない。
露呈した「安全面」での矛盾と圧倒的資金力による二重基準
NFL選手会(NFLPA)は長年、非接触型の深刻なケガ(アキレス腱や膝の靭帯断裂など)を防ぐために全スタジアムの天然芝化を要求してきたが、オーナー側はコストや多目的利用の利便性を理由に拒否し続けてきた。
ここで選手たちの怒りに油を注いでいるのが、NFL側がこれまで行ってきた説明との決定的な「矛盾」だ。
これまでNFLのオーナー側は、選手会の要求に対して「(ラムズ本拠地の)SoFiスタジアムなどで採用されている最新鋭の人工芝は、過去のデータ上、天然芝と比較してもケガのリスクや安全面で遜色がない」と主張し、人工芝の維持を正当化してきた。
しかし、今回FIFAは「どれほど最新の人工芝であろうと許容できない」とばかりにこれを一蹴し、最高峰の舞台には天然芝を絶対条件として要求した。もしNFLの言う通り「最新の人工芝が天然芝と完全に同等で安全」なのであれば、FIFAもそのまま人工芝での開催を受け入れたはずだ。FIFAが天然芝を強硬に求めた事実こそが、NFLオーナー陣が選手会に行ってきた「最新の人工芝は安全」という主張を根底から覆してしまったのである。
米国において、アメフトはサッカーよりもはるかに激しく、ケガの危険性が高いスポーツとして認識されている。より危険な競技に挑む自分たちが「安全だ」と言いくるめられて人工芝でプレーさせられ、相対的に安全とされるサッカーのために極上の天然芝や大掛かりな工事が用意されるという事実は、選手たちにとって許しがたい二重基準だ。
さらに、この怒りを後押ししているのが「圧倒的な資金力」というロジックである。 サッカーの最高峰であるイングランド・プレミアリーグの市場規模が約60億〜78億ポンド(約1兆1000億〜1兆5000億円)とされる中、NFLの市場規模は約230億ドル(約3兆5000億円)に達し、プレミアリーグの2〜3倍という世界最強の経済力を誇っている。
「これだけの圧倒的な収益がありながら、サッカーの数試合のためにすべてを用意できるのであれば、我々NFLのレギュラーシーズンのために天然芝を維持できないはずがない」というのが、選手側の紛れもない本音である。

