「どうやって書いたの?」仏画の中に隠された驚きの文字世界
『観音図』 伝 王振鵬筆 中国・元時代 14世紀
仏画のなかの文字にも興味深い発見があります。経典の一節や尊像の名前、さらには種子(しゅじ)と呼ばれる梵字などが記され、信仰の世界を読み解く手がかりが、画面のあちこちに込められています。
特に目を引くのが、伝 王振鵬の『観音図』です。台座に坐る観音を、定規などを用いて建物を精緻に描く界画(かいが)の技法で表した一作で、その細密な描写にはつい見入ってしまいます。しかし、文字というテーマで注目したいのは作品の上部、つまり観音の頭上です。
図上に書かれた『観音経』(解説パネルより)
そこにびっしり書き込まれているのは、なんと『観音経』およそ2000字。一文字一文字は肉眼では判読するのが難しいほど小さく、「いったいどうやって書いたのだろう?」とただただ驚かされます。
『文字絵十一面観音像』 大臨晋城筆 日本・江戸時代 嘉永6年(1853)
もう一点、大臨晋城による『文字絵十一面観音像』にも目を凝らしてください。遠目には、やわらかな線によって十一面観音が描かれているように見えます。ところが近づいてみると、その線の正体は文字。約4750字もの『観音経』を書き連ねることで、観音の姿を浮かび上がらせた文字絵なのです。
遠くから見れば美しい仏画、近づけば無数の文字。作品の前には虫眼鏡も用意されているので、覗き込みながら、気の遠くなるような手仕事をじっくりと確かめてみましょう。
桜と紅葉、華やかな屏風に隠された文字の仕掛け
『吉野龍田図屏風』 日本・江戸時代 17世紀
この『吉野龍田図屏風』、ひときわ華やかな空気をまとっているのが感じられませんか。右隻には満開の桜、左隻には紅葉が広がり、そのゴージャスな色彩に思わず見惚れてしまいます。しかし、作品の魅力は美しい景色だけに留まりません。「絵のなかの文字」というテーマを意識すると、もうひとつ違った味わい方ができます。
『吉野龍田図屏風』(部分) 日本・江戸時代 17世紀
その文字とは、それぞれの枝に翻る短冊に記された和歌。古今和歌集などから桜や紅葉を詠んだ歌が選ばれ、流麗な筆跡とともに画面にリズムを添えています。
さらに面白いのは、和歌の一部が枝葉によって巧みに隠されていることです。なかには数文字しか読み取れない短冊もありますが、当時の人々はそこから歌の続きを思い浮かべ、楽しんでいたといいます。
絵を眺めながら和歌の世界にも思いを巡らせる。そんな粋な遊びができたのも、和歌に親しみ、その知識を自然に共有していた当時の人々の豊かな教養があればこそ。作品の前に立つと、絵と言葉が織りなす雅な世界へと、するりと引き込まれていきます。
