『飛天文雲版』に注目!銘文に残された改ざんの痕跡とは?
『飛天文雲版』 日本・南北朝時代 延文4年(1359)
一方で絵画の落款に相当するのが、工芸のおける銘文です。作者や所有者の名前だけでなく、制作の目的や出資者、さらには使用する場所などが記されることもあり、作品の来歴をひもとく重要な手がかりとなっています。
南北朝時代に制作された『飛天文雲版』は、禅宗寺院で合図に用いられた鳴物です。その裏面には年紀や施主名、この鋳物を手がけた鋳物師(いもじ)の名が刻まれています。ところが目を凝らすと、一番上の年紀の部分だけが不自然に削られているように見えないでしょうか。
『飛天文雲版』 解説パネル
実はこれ、当初記されていた「延文四己亥年」(1359年)を「延長四丙戌年」(926年)へと書き換えた痕跡。つまり、およそ400年も年代をさかのぼらせているのです。
その理由は定かではありませんが、より古い作品に見せることで価値を高めようとしたためではないかと考えられています。銘文は作品の歴史を伝えるだけでなく、ときにはこうしたミステリアスな物語まで浮かび上がらせてくれます。
空想の国も登場、日本列島を描いた地図皿を愛でる
『染付日本地図長方皿』 日本・江戸時代 19世紀 山本正之氏寄贈
最後に、身の回りを彩る器から、少しユニークな作品をご紹介しましょう。『染付日本地図長方皿』は、18世紀末から19世紀にかけて盛んになった地図出版を背景に、染め付けで日本列島を表した肥前焼の皿です。長方形の見込みには日本地図が描かれ、陸奥や下総、薩摩といった国名も書き込まれています。
ところが、周囲には松前や琉球に交じって、「女護国」や「小人国」といった空想上の国々の名も見つかります。人々は食事の席でこの皿を囲みながら、まだ見ぬ土地や異国に思いを巡らせていたのかもしれません。
画家の署名や落款、絵に添えられた詩文や和歌の賛、仏画や工芸作品に記された文字。会場を巡っていると、文字が単なる説明ではなく、作品を深く味わうための大切な要素であることに気づかされます。
『鏡山図』 日本・鎌倉時代 13〜14世紀
このほか、景色のなかに和歌一首が散らし書きされた同館蔵の『鏡山図』を、類品3幅とともに初めて同時公開しているのも見どころのひとつです。東洋の古美術を「文字」から読み解く面白さを、『はじめての古美術鑑賞 ―美術のなかの文字―』で体感してみてください。
※写真に掲載した作品は、すべて根津美術館の所蔵です。
◆はじめての古美術鑑賞 ―美術のなかの文字―
開催期間:2026年5月30日(土)〜7月12日(日)
所在地:東京都港区南青山6‐5‐1
アクセス:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線〈表参道〉駅下車 A5出口(階段)より徒歩8分。B3出口(エレベータまたはエスカレータ)より徒歩10分。
開館時間:10:00~17:00(最終入館は16:30)
休館日:月曜日
入場料:一般1400(1600)円、学生(大学生以上)600(800)円。
※オンライン日時指定予約。( )内は当日券料金。
ウェブサイト:『はじめての古美術鑑賞 ―美術のなかの文字―』 根津美術館
