働き盛り世代に多い脳腫瘍「神経膠腫」に20年ぶり新薬―術後の「待つしかない治療」を変える可能性

働き盛り世代に多い脳腫瘍「神経膠腫」に20年ぶり新薬―術後の「待つしかない治療」を変える可能性

「完治」が極めて困難とされる脳腫瘍の一種「神経膠腫(しんけいこうしゅ)」。手術をしても腫瘍細胞を完全に取り除くことは難しく、悪性度の高くない患者さんは、次に治療が必要になるほど進行・再発するまで経過を観察することもあります。病気の進行を抑えて「次の治療」の開始を遅らせる分子標的薬「ボラシデニブ」が、2026年3月に国内で発売されました。約20年ぶりに登場した新薬は、神経膠腫の治療にどのような変化をもたらすのでしょうか。日本セルヴィエが主催した2026年5月のメディアセミナーで、名古屋大学大学院医学系研究科脳神経外科学教授の齋藤竜太先生が詳しく解説しました。


神経膠腫とはどのような病気か

「治るんですか?」――神経膠腫と診断された患者さんのほとんどは、診察室で最初にこの言葉を口にすると、齋藤先生は語ります。神経膠腫は完治が難しいとされる一方で、治療の目標は病勢をコントロールし、QOLを維持しながら長く共存することに置かれています。診断された患者さんはこの病気と生涯にわたって付き合っていかなければなりません。

神経膠腫は脳そのものから発生する悪性腫瘍です。脳は大きく分けて「神経細胞」と「神経膠細胞(グリア細胞)」という2種類の細胞から構成されており、神経膠腫はこのうちのグリア細胞に生じます。神経膠細胞には、星細胞(アストロサイト)、乏突起膠細胞(オリゴデンドロサイト)などの種類があり、これらのうち1つがどこかで遺伝子の異常を起こして増殖し続けるのが神経膠腫です。

発症頻度は10万人に数人程度とまれながら、原発性脳腫瘍のなかでは全体の約4分の1を占め、子どもから高齢者まで、幅広い年齢層で発症します。星細胞腫は30~40代、乏突起膠腫は30~60代に発症のピークがあり、比較的若い働き盛りの世代に多いことが特徴です。

治療法は手術・放射線治療・薬物療法の3本柱

神経膠腫のなかでも「びまん性神経膠腫」は特に厄介な特性を持っています。腫瘍細胞が周囲の脳組織に「びまん性(染み込むように広がる)」に浸潤するため、手術でいくら腫瘍を摘出しても、顕微鏡レベルでは必ずといっていいほど腫瘍細胞が残ってしまいます。齋藤先生は「塊としては取れるけれど、取った後に何かが残ると考えるべきです」と話します。

近年、「IDH(イソクエン酸脱水素酵素)遺伝子変異」が神経膠腫の分類において中心的な位置づけを占めるようになりました。IDH遺伝子の変異は腫瘍ができる最初期に関わる「ドライバー変異」とされており、星細胞腫と乏突起膠腫はほぼ全例でIDH遺伝子に変異を持っています。この変異が起きると、細胞内に「2-HG(2-ヒドロキシグルタル酸)」という異常な代謝産物が蓄積してがん化が進むことが明らかになっています。また、IDH遺伝子変異後にさらなる遺伝子異常が積み重なることで腫瘍の悪性度が高まっていくため、早期段階での治療介入が重要と考えられています。

神経膠腫の主な治療法は手術・放射線治療・薬物療法の3本柱です。脳には「血液脳関門」という強固なバリアがあるため、投与した薬剤が脳内に到達しにくく、薬物療法の効果は限定的でした。グレード2程度の低悪性度の腫瘍では手術後に放射線治療や化学療法をすぐには行わず、定期的なMRI検査で経過を観察する「ウォッチ・アンド・ウェイト(watch and wait)」が選択されることも多く、患者さんは再発するまで何もできないまま病院に通い続けるという状況が続いてきました。

配信元: Medical DOC

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