働き盛り世代に多い脳腫瘍「神経膠腫」に20年ぶり新薬―術後の「待つしかない治療」を変える可能性

働き盛り世代に多い脳腫瘍「神経膠腫」に20年ぶり新薬―術後の「待つしかない治療」を変える可能性

20年ぶりの新たな選択肢

こうした状況のなか登場したのがボラシデニブです。びまん性神経膠腫に対する新たな標準治療となり得る薬剤が承認されたのは実に20年ぶりのことで、齋藤先生は「長年止まっていた治療の進歩がようやく動いた」と表現します。

ボラシデニブはIDH1およびIDH2の両方の変異に対応する阻害剤です。変異型IDHタンパク質の酵素活性を阻害することで、腫瘍細胞内に蓄積する2-HGの産生を抑制し、腫瘍細胞の異常な増殖を食い止める働きをします。

ボラシデニブの特徴として「脳移行性」が挙げられます。従来の薬剤は血液脳関門の透過性が低く脳内に届きにくかったのとは異なり、ボラシデニブは血液脳関門を通過して脳の深部に残存する腫瘍細胞に直接作用することができます。齋藤先生は「手術をしても残してしまう細胞に効く可能性がある薬剤が20年越しに出てきた」と述べました。

治療上の位置づけとしては、IDH遺伝子変異型の低悪性度神経膠腫(グレード2)の患者さんが手術後に経過観察となる段階、すなわちこれまで「ウォッチ・アンド・ウェイト」しかなかった期間にボラシデニブを投与することで、再発や次の治療介入が必要になるまでの時間を延ばすことが期待されています。

国際共同試験「INDIGO」が示した有効性と安全性

ボラシデニブは、第III相国際共同無作為化二重盲検比較試験「INDIGO試験」で有効性が検証されました。

試験の対象は、IDH1またはIDH2変異陽性でWHO分類グレード2の、残存または再発した星細胞腫または乏突起膠腫の患者さん331例(12歳以上)です。参加者はボラシデニブ40mg(1日1回)を投与する群(168例)とプラセボ群(163例)に1対1で無作為に割り付けられました。

主要評価項目である「無増悪生存期間(PFS)」の結果は明確でした。PFS中央値は、ボラシデニブ群で27.7カ月だったのに対し、プラセボ群では11.1カ月にとどまり、16カ月以上の差が生じました。病勢進行または死亡のリスクを61%低減させたことが示されています。

副次評価項目として設定された「次介入開始までの期間(TTNI:手術や放射線・化学療法など次の積極的な治療が必要になるまでの期間)」もボラシデニブ群は中央値*に達しませんでした(プラセボ群の中央値は17.8カ月)。

INDIGO試験には日本からも参加者が登録されました。日本人は16例と限られたデータにおける結果ながら、12カ月時点でのPFS率は100%であり、病勢の進行は見られませんでした。また、12カ月時点で放射線治療や化学療法などの追加治療を必要としなかった人の割合は93.8%と、海外に劣らない良好な結果が得られています。

海外における主な副作用(10%以上)として、ALT増加、AST増加、GGT増加、悪心などが報告されています。齋藤先生は「特に肝機能障害に気をつけておかないといけない薬剤」と表現します。日本人では、ALT増加が68.8%、AST増加が56.3%と、海外(それぞれ36.5%、24.6%)より高率で肝機能値の上昇が見られており、日本人での注意深いモニタリングが重要です。

*治験における「中央値」:参加した患者さんのデータ(この場合は治療が必要になるまでの期間)を順に並べたとき、上からも下からも真ん中になる患者さんの値。「中央値に達しない」とは、治験期間中に参加者の半数以下しか治療が必要な状態にまで症状が進行しなかったことを意味します。

配信元: Medical DOC

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