高齢化が進む日本では、介護する側も高齢の方で老老介護が増加しています。体力や認知機能の低下を抱えながらの介護は負担が大きく、心身の不調や孤立、共倒れにつながるリスクも指摘されています。一方で、現状を正しく理解し、適切な支援やサービスの活用で負担の軽減は可能です。本記事は、老老介護の現状とリスク、共倒れを防ぐための具体的な対策を解説します。

監修医師:
伊藤 規絵(医師)
旭川医科大学医学部卒業。その後、札幌医科大学附属病院、市立室蘭総合病院、市立釧路総合病院、市立芦別病院などで研鑽を積む。2007年札幌医科大学大学院医学研究科卒業。現在は札幌西円山病院神経内科総合医療センターに勤務。2023年Medica出版社から「ねころんで読める歩行障害」を上梓。2024年4月から、FMラジオ番組で「ドクター伊藤の健康百彩」のパーソナリティーを務める。またYou tube番組でも脳神経内科や医療・介護に関してわかりやすい発信を行っている。診療科目は神経内科(脳神経内科)、老年内科、皮膚科、一般内科。医学博士。日本神経学会認定専門医・指導医、日本内科学会認定内科医・総合内科専門医・指導医、日本老年医学会専門医・指導医・評議員、国際頭痛学会(Headache master)、A型ボツリヌス毒素製剤ユーザ、北海道難病指定医、身体障害者福祉法指定医。
老老介護とは

高齢の方が高齢の方を介護する状態を指します。主に65歳以上の配偶者や親族が担い手となり、加齢による体力や健康面の不安を抱えながら介護を行う点が特徴です。
老老介護の定義
老老介護とは、主に65歳以上の高齢の方が同じく高齢の家族を介護する状態を指します。一般的には、配偶者同士や親子間で行われるケースが多く、介護する側・される側の双方が加齢による体力や健康上の課題を抱えている点が特徴です。明確な法的定義があるわけではありませんが、高齢の方同士で日常生活の支援や身体介護を担う状況を広く含む概念として用いられています。高齢化の進行に伴い、このような世帯は年々増加しており、社会的にも重要な課題とされています。
参照:『老老介護・認認介護とは 』(健康長寿ネット)
日本の現状
日本は少子高齢化が進み、老老介護は珍しいことではなくなってきています。介護者・要介護者ともに65歳以上の世帯は増加傾向にあり、特に高齢夫婦のみで暮らす世帯は、介護を一人で抱え込んでしまう状況が目立ちます。その結果、介護者自身の病気や疲労の悪化、うつ状態、さらには介護放棄や共倒れなどの深刻な問題につながるリスクが高まっています。
また、地域とのつながりが弱く、支援制度やサービスの情報にアクセスしづらい高齢の方も少なくありません。このような現状から、医療・介護専門職や自治体が早期に関わり、負担を分かち合う仕組みづくりが重要になっています。
参照:『老老介護・認認介護とは 』(健康長寿ネット)
老老介護が増加している背景
いくつかの社会的要因が複雑に関係しています。まず、日本人の平均寿命は延び続ける一方で、日常生活を自立して送れる健康寿命との差が依然として大きく、この介護が必要な期間が長期化していることが挙げられます。
また、少子化と核家族化により、同居して支え合う子ども世代が少なくなり、高齢の夫婦のみ、あるいは高齢の方のみの世帯が増えたことも大きな要因です。
さらに、経済的な余裕のなさや「子どもや他人に迷惑をかけたくない」などの意識から、介護サービス利用や外部に助けを求めることをためらい、結果として高齢の方同士で介護を抱え込むケースが増えています。
こうした状況により、老老介護は今後も増加すると考えられており、早期の支援につなげる仕組みづくりが求められています。
老老介護で介護者に生じやすいリスク

老老介護は、介護者自身も高齢なため、身体的な疲労や持病の悪化、腰痛などの健康被害が生じやすいです。また、孤立感や不安から、うつ状態や介護うつに陥るリスクも高まります。
身体的な負担
介護者自身も高齢なことから、身体的な負担が蓄積しやすいです。加齢により筋力や持久力が低下している状態で、入浴や排泄の介助、体位変換や移乗などの身体介護を続けると、腰痛や関節痛、筋肉痛をはじめとした整形外科的トラブルが起こりやすいです。
また、夜間の見守りや頻回のトイレ介助により睡眠が分断され、慢性的な睡眠不足や疲労感を抱えやすく、その結果として持病の悪化やフレイルの進行につながるおそれもあります。
こうした負担が蓄積しても、「自分が頑張らなければ」などの思いから無理を重ねてしまい、気付いたときには介護者自身が転倒・骨折や体調不良で入院を余儀なくされるケースも少なくありません。
参照:『令和6年度 老老介護に関する実態調査 報告書』( 令和7年1月 鳥取県福祉保健部ささえあい福祉)
精神的なストレスと介護うつ
身体の負担に加えて精神的なストレスもとても大きくなりやすいです。介護者自身も高齢ななか、「自分がやらなければ」「迷惑はかけられない」などの責任感や義務感を抱え込みやすく、失敗できないプレッシャーから不安や緊張が続きやすいです。
また、介護によって外出や趣味の時間が減り、友人や地域とのつながりが希薄になると、孤独感や閉塞感が強まり、気分の落ち込みや意欲の低下が目立ちます。このような状態が続くと、眠れない、食欲がない、何をしても楽しくないなどのうつ症状が現れ、介護うつと呼ばれる状態に陥ることがあります。精神的なストレスは身体の不調とも密接に関連するため、早めに周囲や専門職に相談し、負担を分かち合うことが大切です。
介護者自身の健康悪化
介護者自身の健康悪化が大きなリスクです。高齢のからだで入浴介助や移乗、排泄介助などの身体介護を続けることで、腰痛や関節痛、筋力低下、転倒・骨折などの整形外科的トラブルを抱えやすいです。
また、夜間の見守りや頻回な対応により睡眠不足が続くと、疲労の蓄積や持病(高血圧、糖尿病、心疾患など)の悪化、フレイルやサルコペニアの進行につながるおそれがあります。さらに、強いストレスや孤立感は、食欲低下や抑うつ症状を招き、心身両面で健康を損ないやすいです。介護者の健康悪化は、介護を続けられなくなる共倒れに直結するため、早い段階から医療機関の受診や介護サービスの活用で負担を軽減していくことが大切です。
介護者自身の認知症の見逃し
介護者自身も高齢なため、認知症の始まりが見逃されやすいなどの問題があります。本来は物忘れや段取りの悪さ、同じことを何度も確認する、などの変化が見られていても、「年のせい」や「介護で疲れているだけ」と考えてしまい、受診や相談が先送りになりやすいです。
また、介護の役割を抱えているため、自分の不調を周囲に言い出しにくく、「まだ大丈夫」と無理を重ねてしまうことも一因です。その結果、介護者の認知機能低下が進行し、薬の飲み間違いや金銭管理のミス、介護手順の抜けなどが増え、介護そのものの安全性が損なわれるおそれがあります。
介護者であっても「近頃物忘れが増えた」「段取りがうまくいかない」と感じたら、早めにかかりつけ医や専門窓口への相談が大切です。

