サルコペニアは、加齢に伴う筋肉量の減少だけでなく、筋力や歩く力などの身体機能の低下を伴う状態です。進行すると、転倒や骨折、要介護状態につながることがあり、高齢の方の生活の質や健康寿命に関わります。年齢のせいと思われやすい変化のなかに、サルコペニアのサインが隠れていることもあります。
この記事は、サルコペニアの原因や診断基準、予防のための運動と食事のポイントを解説します。

監修医師:
林 良典(医師)
名古屋市立大学
【経歴】
東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。
【資格】
医学博士、公認心理師、総合診療特任指導医、総合内科専門医、老年科専門医、認知症専門医・指導医、在宅医療連合学会専門医・指導医、日本緩和医療学会認定登録医、禁煙サポーター
サルコペニアとは

サルコペニアは、筋肉量の減少に加えて、筋力や身体機能の低下を伴う病態です。フレイルやロコモティブシンドロームとも関係が深く、生活機能の低下を防ぐうえで早めの理解が大切です。
サルコペニアの定義
サルコペニアは、1989年に米国のIrwin Rosenbergによって提唱された概念です。ギリシャ語で筋肉を表すsarxと、喪失・減少を意味するpeniaを組み合わせた言葉で、当初は加齢に伴う骨格筋量の減少を指していました。
その後、筋肉量だけでは高齢の方の生活機能低下や生命予後を十分にとらえられないことがわかってきました。現在は、骨格筋量の減少に加えて、握力などの筋力低下、または歩行速度などの身体機能低下を伴う症候群として考えられています。
サルコペニアが進行する経過
サルコペニアは段階的に進行します。初期には、筋力や身体機能が保たれていても、骨格筋量だけが減少していることがあります。これは一般にプレサルコペニアと呼ばれます。
その状態が続くと、筋肉の量だけでなく質や出力も低下し、握力低下や歩行速度の低下が現れます。骨格筋量の減少に加えて筋力低下がみられる場合は、サルコペニアと呼ばれます。さらに身体機能の低下が加わると、日常生活への影響や転倒リスクが高まりやすくなります。
フレイルやロコモティブシンドロームとの関係
サルコペニアは、フレイルやロコモティブシンドロームと深く関係しています。フレイルとは、加齢に伴って心身の予備力が低下し、ストレスに対する回復力が弱くなった状態です。体重減少や疲労感、筋力低下、歩行速度低下、活動量低下などが特徴で、身体的フレイルの中心にある病態のひとつがサルコペニアです。ロコモティブシンドロームは、骨や関節、筋肉などの運動器の障害によって移動機能が低下した状態です。サルコペニアによる筋量・筋力低下は、ロコモティブシンドロームの原因のひとつです。
サルコペニアの主な原因

サルコペニアは、原因によって一次性と二次性に分けられます。加齢以外に明らかな原因がないものを一次性サルコペニア、活動量の低下、栄養不足、病気などが関わるものを二次性サルコペニアと呼びます。原因を分けて考えることで、予防や改善に向けた対応を考えやすくなります。
加齢に伴う身体の変化
一次性サルコペニアは、加齢に伴って筋肉量や筋力が低下する状態です。筋肉量は20〜30代をピークに、その後は年齢とともに少しずつ減少します。
背景には、筋肉の修復や再生に関わる筋衛星細胞の減少、筋肉を支配する運動ニューロンの減少があります。さらに、成長ホルモンやテストステロンなど筋肉の合成を支えるホルモンの分泌低下も関係します。加齢に伴う慢性的な炎症や酸化ストレスも、筋たんぱく質の合成を妨げ、骨格筋量の減少を進める要因です。
運動量や活動量の低下
運動量や活動量の低下は、二次性サルコペニアの代表的な原因です。寝たきり、長時間座ったままの生活、病気や骨折による長期臥床などで筋肉にかかる負荷が減ると、筋肉量や筋力は低下しやすくなります。骨格筋は、身体を動かし、重力に逆らって姿勢を保つことで量と機能を維持しています。反対に、筋肉を使う機会が少ない状態が続くと、使わない筋肉が細くなり、力も弱くなる変化が進みます。
タンパク質などの栄養不足
栄養不足も、二次性サルコペニアの原因です。食欲の低下、噛みにくさ、飲み込みにくさ、消化吸収機能の衰えなどがあると、食事量が減りやすくなります。その結果、筋肉を維持するために必要なエネルギーやたんぱく質が不足することがあります。
また、高齢の方は、たんぱく質を摂っても若い世代ほど筋肉づくりに使われにくくなることがあります。そのため、食事量やたんぱく質の不足が続くと、筋肉の減少につながりやすいです。ビタミンDや微量栄養素の不足も、筋肉の働きに影響しサルコペニアの発症を助長すると考えられています。
疾患による影響
病気による全身の代謝変化も、二次性サルコペニアの原因です。代表的な疾患には、悪性腫瘍、慢性閉塞性肺疾患、慢性腎臓病、心不全、骨粗鬆症などがあります。特に進行した悪性腫瘍は、がん悪液質と呼ばれる代謝障害が生じることがあります。炎症性サイトカインや、たんぱく質分解を促す因子などが関わり、脂肪の減少の有無にかかわらず、骨格筋の分解が進みます。

