加齢とともに多くの人が向き合う白内障、そして近視・乱視・老眼といった「見え方」の悩み。「人生100年時代」において、『見える』ことは単なる医療の問題ではなく、働くこと、学ぶこと、楽しむことを支える社会基盤になりつつあります。白内障手術や眼内レンズ、近視などを改善させる屈折矯正手術は進歩を続け、その目標は「見えればいい」から「その人らしく見える」へと移りつつあります。これらの技術について議論する第41回日本白内障屈折矯正手術学会(JSCRS)学術総会が、「Ready to Fly(飛び立つ準備はできた)」をテーマに2026年6月26~28日、東京・丸の内の東京国際フォーラムで開かれます。学術総会の会長を務める柴琢也先生(六本木 柴眼科 院長)に、手術の進歩が暮らしに何をもたらすのか、学術総会に込めた思いなどについて聞きました。
「見えればいい」から「その人らしく見える」へ
かつて白内障(目の中でカメラのレンズにあたる水晶体が濁り、見えにくくなる病気)の手術は、濁った水晶体を取り除いて「明るく見えるようにする」ことがゴールでした。しかし今は違います。
手術そのものの精度が高まり、安定して良好な術後視機能を患者さんに提供できるようになりました。手術機器やデジタル機器の進歩で、手術前から目の状態を、より正確かつ詳細に把握できるようになったことにより、一人ひとりに合わせた計画を立てられるのです。さらに大切なのは、患者さんがどのような見え方で、どのような生活を送りたいのかくみ取り、それを高いレベルで形にできるようになったことです。
たとえば、濁った水晶体の代わりに入れる人工のレンズ(眼内レンズ)には、遠くと近くなど複数の距離にピントが合いやすいタイプ(多焦点眼内レンズなど)があります。近視・乱視・遠視を手術で改善させる屈折矯正手術も同じように進みました。目の中にレンズを入れるICLや、レーザーで角膜を調整するレーシックといった方法です。
正解は一つではありません。長年なじんできた眼鏡での見え方を高い精度で再現することもできますし、眼鏡を手放したい人にはその選択も提供できます。患者さんが望む見え方に、技術の面からも寄り添えるようになりました。
「見える」が人生100年時代の暮らしを支える
見え方が変わると、暮らしも変わります。眼鏡に頼らず仕事やスポーツ、趣味、旅行を楽しむ人が増えてきました。屈折矯正手術は単に眼鏡を外すだけではなく、活動の範囲、ときには職業の選択肢も広げる医療だと考えています。
高齢の人にとっての意味も大きいものです。研究では、白内障の手術を受けた人は転倒や骨折のリスクが低下し、転倒のリスクが約3割減ったという報告もあります。高齢の人の骨折は寝たきりの原因となり、寝たきりは認知機能低下の要因になることがあるため、視力を保つことは、認知機能を維持する一助になる可能性があると考えられています。
視覚と認知機能との関わりでは、ほかにもさまざまな指摘があります。視覚は、脳に届く情報源のなかで最も大きな割合を占めます。白内障による視覚からの刺激減少は、認知機能低下と関連すると考えられています。白内障手術を受けた人は、長期的な認知機能低下のリスクが約25%低かったというデータもあります。見えづらくなると外出や運転、買い物を控え、人との付き合いも減りがちです。視力の低下によって生活全般で受ける刺激が少なくなること自体が、認知機能には望ましくありません。
「見える」ことは高齢の人の自立した生活を支えます。白内障・屈折矯正手術が寿命そのものを延ばすかは、簡単には言えません。ただ、少なくとも健康寿命を延ばして、やりたいことを諦めずに続けられる――人生を豊かにする医療であると感じています。

