将来、誰にでも医療や介護に関する意思決定ができなくなる日が訪れる可能性があります。そのような事態に備え、自身が望む医療やケアに関して前もって考え、家族や医療介護の専門職と共有しておく取り組みが人生会議です。
本記事では、人生会議の基本的な定義や話し合うべき具体的なテーマ、家族で取り組む際の円滑な進め方、関連する制度を解説します。

監修社会福祉士:
小田村 悠希(社会福祉士)
・経歴:博士(保健福祉学)
これまで知的障がい者グループホームや住宅型有料老人ホーム、精神科病院での実務に携わる。現在は障がい者支援施設での直接支援業務に従事している。
人生会議とは

人生会議とは、ご本人の価値観や希望を継続的に話し合うプロセスそのものを指します。はじめに、人生会議の正確な定義や、医療現場で使われる専門用語との関係、国を挙げて推進されている社会的背景を解説します。
人生会議の定義
人生会議とは、もしものときのために、自分が望む医療やケアに関して前もって考え、家族や医療ケアチームと繰り返し話し合い、共有する取り組みのことです。厚生労働省が啓発活動を進めています。年齢や健康状態にかかわらず、誰もが突然の病気や事故に見舞われる可能性があります。自分の意思を伝えられなくなったときに備えて、あらかじめ自身の価値観や希望を信頼できる方たちに託すために行われるものです。
人生会議は、人生の最終段階にある患者さんだけが行うものではありません。健康な時期から、状態の変化に合わせて段階的に考えます。いざというときに周りの大切な方たちが混乱しないように準備し、自分の望むような最期を迎えられるようにしよう、といった意味が込められた言葉です。
ACP(アドバンス・ケア・プランニング)との関係
人生会議の正式名称は、ACP(Advance Care Planning:アドバンス・ケア・プランニング)です。人生会議とACPは、基本的に同じプロセスを指しています。ACPは主に医療や介護の現場で用いられる言葉ですが、一般の方に普及しやすいように愛称が公募されました。2018年11月、人生会議という呼称が決定され、11月30日(いい看取り・看取られ)が人生会議の日とされました。
一方、令和4年度に厚生省が『人生の最終段階における医療ケアに関する意識調査の結果について』のなかで、調査を行っています。
人生会議を知らない人は72.1%
人生の最終段階における医療ケアに関する希望について、これまでに考えたことがある人は51.9%
人生の最終段階で受けたい、もしくは受けたくない医療やケアについて、ご家族などや医療介護従事者と詳しく話し合っていると思っている人は29.9%
調査対象3,000人のうち、人生会議の認知度は30%を下回っています。
愛称をつけたものの、まだ人生会議を知らない方、知っていても話し合えていない方が多数派です。
参照:『令和4年度人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査の結果について(報告)』(厚生労働省)
人生会議が広がっている背景
人生会議が強く推奨されるようになった背景には、日本の超高齢社会と、それに伴う多死社会、医療処置の意思決定モデルの変化があります。
現在では、患者本人と医療者が情報を共有し、ともに方針を決定するシェアード・ディシジョン・メイキングが重視されています。
しかし、本人の意思が確認できない場合、家族が胃ろうを造るべきか、人工呼吸器を装着すべきか、などの医療上の重大な決断を迫られることがあります。決断の際に、家族が重い精神的負担や深刻な後悔を抱える可能性があるケースです。
厚生労働省の啓発ポスターによると、命の危機が迫った状態になると、約70%もの方が医療やケアなどを自分で決めたり、望みを人に伝えるのが難しくなるといわれています。
本人の尊厳ある生き方を守り、同時に残される家族の負担や葛藤を軽減するためにも、元気なうちから人生会議を行うことの重要性が社会全体で認識されるようになっています。
参照:『もしもの時のために「人生会議」』(厚生労働省)
人生会議で話し合いたいテーマ

人生会議では、延命治療をするか否かの医療的判断だけでなく、本人の生き方そのものを掘り下げて共有する姿勢が重要です。具体的にどのようなテーマを話し合うべきか解説します。
大切にしたい価値観や生活
人生会議で大切なのが、本人の価値観や生活の質(QOL:Quality of Life)に関する考え方です。医療行為の選択は、希望の価値観を実現するための手段に過ぎません。
具体的には下記の内容について話し合います。
これまでの人生で何を最も大切にしてきたか
どのような状態であれば自分らしく生きていると感じられるか
誰と一緒に時間を過ごしたいか
日々の生活で欠かしたくない趣味や日課は何か
例えば、「たとえ寿命が短くなっても、自分で動ける状態を保ちたい」「寝たきりになってもいいから、1日でも長く生きたい」と価値観が異なれば、選択すべき治療方針も異なってきます。
本人の価値観を具体的に共有しておくと、複数の治療の選択肢を提示された際に、代理で判断する家族が決定しやすくなるでしょう。
受けたい医療やケアの希望
将来、人生の最終段階に移行した場合を想定して、具体的な医療処置に対する希望を話し合います。
代表的な内容として下記が挙げられます。
心肺停止時の心肺蘇生を望むか
加齢や認知症の進行によってお口から食事が摂れなくなった際の人工栄養や水分補給を希望するか
治癒を目指す治療が難しくなった段階で、緩和ケアをどの程度行うか
医療処置を理解するためには、高度な医学的知識が必要です。よって、単なる希望を並べるだけで終わらせず、必要に応じてかかりつけ医などの専門職を交えた話し合いが推奨されます。話し合いにあたって、それぞれの処置のメリットと合併症や苦痛の有無などデメリットの正確な理解が必要なためです。
療養や看取りの場所についての希望
最期の時間をどこで、どのように過ごしたいかなどの療養場所の希望も、人生会議の重要なテーマです。
最期まで住み慣れた自宅で、家族やペットに囲まれて過ごしたい
いざというときに医療者がすぐに処置してくれる病院が安心だ
家族に介護負担をかけたくないため、特別養護老人ホームなどの介護施設での療養を希望する
以上のように考え方はさまざまです。
本人の希望を尊重することは大前提ですが、家族が介護にどの程度関われるかどうか、地域の在宅医療、訪問看護の体制などの現実的な制約も考慮します。理想と現実のギャップを埋めるためにも、専門職を交えて現実的にどのような選択肢が実現可能かすり合わせることが大切です。

