「運動は体によいとわかっていても、なかなか続かない」と感じる人は多いのではないでしょうか。実際、日本ではフィットネスジムの通所率が約4.5%にとどまり、運動を習慣的にしていない人は約55%ともいわれています。一方、昨年開催された大阪・関西万博では、多くの来場者が運動を意識せずとも2万歩以上歩いていたといわれています。そこで今回は、この行動変容の背景を手がかりに、個人健康記録(PHR)や医療データ活用を通じたこれからの運動、予防医療のあり方について考えます。
宮脇 大
Doctor’s Fitness診療所 代表医師。2011年に大阪大学医学部を卒業後、倉敷中央病院循環器内科で初期・後期研修を積み、2016年より大阪大学医学部附属病院循環器内科医員として重症心不全の治療・研究に従事。2021年には「Doctor’s Fitness診療所」を開業し、運動療法を中心に生活習慣病の一次~三次予防の社会実装に取り組んでいる。日本スポーツ協会公認スポーツドクターやラグビーW杯嘱託医も務め、心疾患予防における運動の重要性を広く発信している。
山田 憲嗣
大阪大学国際医工情報センター寄附部門教授。大阪市立大学大学院工学研究科後期博士課程修了。博士(工学)。株式会社AIBTRUST特別顧問。
田中 太郎
大阪府スマートシティ戦略部特区推進課長
堀江 貴文
一般社団法人予防医療普及協会理事。SNS media&consulting株式会社ファウンダー。1972年福岡県生まれ。ロケット開発を手がける「インターステラテクノロジズ」ファウンダー。有料メールマガジン「堀江貴文のブログでは言えない話」の配信、会員制コミュニケーションサロン「堀江貴文イノベーション大学校」の運営など、幅広く活躍。
「楽しさ」は人を動かす―万博が示した行動変容のヒント
宮脇氏:
昨年開催された大阪・関西万博では、来場者が1日2万歩以上歩くという現象が起こりました。会場を一周する大屋根リングは全周約2kmで、世界最大級の木造建築物としてギネス世界記録に認定されています。しかし、多くの人は「運動している」という意識を持たず、展示を楽しみながら自然と歩数を重ねていたのでしょう。
重要なポイントは、運動は「やらなければならないもの(義務)」になると続かない一方、万博のように「行きたい」「見たい」という自発的欲求が先立つ場合、結果として身体活動量が増えるという点です。来場者が「今日は2万歩歩いた」と誇らしげに話す様子は、行動変容のヒントを示していると感じました。
日本人の半数以上は運動を継続できない
宮脇氏:
日本では、週2回・30分以上の運動を1年以上継続している人の割合が、2009~19年でほとんど変化していません。さらに、日本でフィットネスジムに通っている人は約4.5%にとどまり、運動習慣のない人は全体の約55%にのぼるともいわれています。WHO(世界保健機関)がどれだけ「運動の効果は科学的に明らかである」という情報を出しても、多くの人の行動は変わりませんでした。
一方で、近年「身体活動のパラドックス」という言葉が注目されています。これは、余暇のための運動は心血管系の病気のリスクを下げる一方、仕事中の身体活動はリスクを高める可能性があるという報告に基づいています。つまり、肉体労働による身体活動は健康にはつながらず、「意識的に選ぶ運動」が重要ではないかと考えられます。

