重症筋無力症は全身の筋力低下や、易疲労性がみられます。まぶたが重く垂れ下がる眼瞼下垂や、焦点が合わずものが二重に見える複視などの眼の症状を起こしやすいです。さらに症状が進行して重症化すると、食べ物を飲み込む力が低下する嚥下障害や、声を出しにくくなる構音障害、そして呼吸を担う筋肉の麻痺による命に関わる呼吸困難を来すこともあるため、日々の体調管理や生活習慣には大変気をつかう必要があります。
本記事では、日常生活を送るうえでやってはいけないことや、体調を安定したよい状態に保つための生活のポイントを解説します。

監修医師:
高宮 新之介(信州大学医学部附属病院 呼吸器外科)
昭和大学(現・昭和医科大学)卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、日本外科学会専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事する中、医学博士を取得。昭和大学横浜市北部病院(現・昭和医科大学横浜市北部病院)呼吸器センターを経て、現在は信州大学医学部附属病院 呼吸器外科に勤務。肺がんを中心とした呼吸器外科診療、低侵襲手術、肺がん術後QOL、術前心理状態と術後疼痛に関する研究に取り組む。日本外科学会専門医、日本呼吸器外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。
重症筋無力症でやってはいけないこと

重症筋無力症と診断された方が、日常生活を送るうえで特に注意を払うべきやってはいけない行動を解説します。
禁忌薬の服用
神経から筋肉への伝達を阻害する作用を持つ一部の抗菌薬や循環器系の治療薬、精神科領域の薬などは、重症筋無力症の増悪と密接に関連することが知られています。そのため、別の病気で医療機関を受診する際は、これらの薬剤を避けてなるべく安全な代替薬を使用する配慮が求められます。
過度に疲れる行動
重症筋無力症の典型的な症状である易疲労性は、筋肉を繰り返し動かすことで神経伝達物質であるアセチルコリンの受け渡しが滞り、極端な筋力低下を引き起こす状態を指します。そのため、健康な方と同じ感覚で身体を過度に酷使する長時間の運動や、休みを一切挟まない過酷な肉体労働を行うのは避ける必要があります。
過度な睡眠不足
睡眠時間が不足すると、身体の疲労が十分に回復しないだけでなく、交感神経と副交感神経の切り替えが上手くいかなくなり、結果として自己抗体の産生など免疫系に悪影響を及ぼす可能性があります。夜更かしを避け、毎日決まった時間に就寝や起床を行うよう心がけることは、重症筋無力症の治療の土台となる大変重要な取り組みです。
重症筋無力症|日常生活のポイント

重症筋無力症と付き合っていくためには、薬による治療だけでなく、日々の生活のなかでの工夫が欠かせません。ここでは、体調を安定させ、安全で快適な毎日を送るための具体的なポイントを解説します。
十分な休息をとる
日々の活動において、身体が完全に疲れ切ってしまう前に、こまめな休息を計画的に挟むことが重要です。重症筋無力症の患者さんは、午前中や休息をとった直後は身体が動かしやすいものの、午後や夕方になるにつれて症状が強くなる日内変動という傾向があります。そのため、体力を使う重要な用事や外出は午前中に済ませるなど、1日のスケジュールに余裕を持たせる工夫が効果的です。
感染症対策を怠らない
重症筋無力症の患者さんにとって、風邪や肺炎をはじめとする感染症にかかることは大変危険です。体内へのウイルスや細菌の侵入がトリガーとなって免疫系が過剰に反応し、急激な症状の悪化であるクリーゼを来すことが多いからです。
転倒しにくい環境を作る
重症筋無力症によって下肢の筋力低下が進行すると、歩行時のバランスが崩れやすくなり、わずかな段差でもつまずいて転倒するリスクが高まります。階段を昇る際に足が重く感じたり、ふらついたりする場合は要注意です。転倒による骨折などのケガは、長期間の安静や寝たきり状態を招き、筋肉のさらなる萎縮や体力の低下を引き起こすため大変危険です。
飲み込みにくい場合は食材や献立を工夫する
重症筋無力症では、喉やお口の周りの筋肉が弱ることで嚥下障害が現れることがあります。飲み込む力が低下すると、食べ物や飲み物が誤って気管に入ってしまう誤嚥を引き起こし、重篤な誤嚥性肺炎につながるリスクが大変高くなります。食事の際は、むせにくい食材の選択や、飲み込みやすさを考慮した献立の工夫が必要です。
ケガや体調不良時は速やかに受診する
重症筋無力症の患者さんは、健康な方であればすぐに治るような些細な体調不良やケガであっても、そこから一気に病状が悪化して重篤な状態に陥ることがあります。少し風邪気味である、転倒して軽く打撲した、微熱があるといった場合でも、決して自己判断で放置したり様子を見たりせず、速やかに医療機関を受診して医師の診察を受けてください。

