京都男児行方不明事件後に問い合わせが増加。子ども用「見守りGPS」の最前線

社内メンバーが入った居酒屋までわかり「これは見守れる!」と確信

八木 そんななか、当時MVNO(仮想移動体通信事業者)の解禁をうけて、我々もドコモ網と通信ができるような状態になりまして。結果的に、一番確実なドコモ網と、クラウドで位置を特定する我々が作ったサーバーでのエンジンで、安心できるものに至ったという経緯です。

それにより、子どもが屋内にいようが地下鉄に乗っていようが位置が特定できて、通信も安心できるようになり、「これならコンセプトを体現できるものに仕上がるな」と、いよいよ量産に向けてスタートしました。世の中にある位置測位技術をさまざま試して、ようやくベストなものを見出した、という感じです。

2017年にリリースされた初代となる「GPS BoT」

ーー 量産を前に、いまの方式の試作品第1号をお子さまやモニターの方に持ってもらったと思いますが、どんな声がありましたか?

八木 「これでようやく安心できる」というお声をいただきました。あと私がおもしろいと思ったのは、社内のエンジニアたちにも試してもらったんです。移動のログを見ると、あるメンバーが帰り道に居酒屋で一杯やって帰ったな、というのがわかったんですよね。その瞬間、「これはいける! 見守れる!」「世にお届けする価値のあるものを見出せたな!」と確信に至りました。

ーーよくそこまで見せてくれましたね(笑)!

八木 メンバーが身を晒してくれたおかげです(笑)。

ーー量産するにあたり、予算だったり、より多くの人が持ち歩きやすいデザインだったり、いろいろな壁があったと思います。

八木 おっしゃるとおり、たとえばデザイン面で、元々は長方形だったんです。そうすると、ポケットに入れると圧がかかってお尻で割れてしまいかねない。角がとがったものもありましたが、ランドセルに入れるときに引っかかったり、子どもが持つには痛かったり。もっと小さいデザインもありましたが、そうすると内蔵するバッテリーも小さくしなければいけなくて、バッテリーがあまり持たなくなってしまったり。

ということで、突き詰めた結果、5cm角の使い古した石鹸のような、角が丸い正方形がベストだと至りました。

第1世代から最新モデルの第6世代まで、デザインは一貫して角丸の正方形

ーーそんな初代「GPS BoT」が2017年に発売して以降、見守りGPS分野において国内シェアトップを独走中です。多くの企業があとを追っています。革命を起こした、と言っても過言ではありませんが、革新的な製品を開発すると、どうしても類似品が出てくるものですよね。

八木 我々がようやくこの形に至ったところで、各社さんも5cm角の白くて角が丸い正方形ばかりになり、これが世の中のスタンダードになったのかなと思っています。技術面でも、我々が開発した基本構成にのっとってみなさん開発されています。

八木  我々が業界基準を作ったと言っていいのかなと思っていますし、模倣されるだけの価値のあるものを創出したんだという自負もありますが、一方で、我々が苦労して苦労して生み出したものにフリーライドして……という複雑な思いもあり、やっぱり両方なんですよね。

けれど、結果的にそれが市場全体として子どもの安心・安全に繋がるのであれば、我々はいい仕事をしたと思えるのかなと思っています。

バス車内置き去り事件を目にし、双方向ボイスメッセージ機能を追加

ーー最新版は第6世代ですが、その過程で新たな機能がついたり、または見直されたりもしましたか?

八木 2022年、静岡県の認定こども園の通園バス車内に、園児が置き去りにされた事件がありました。事件以前から、そのようなヒヤリハットが危惧されていたため、双方向のコミュニケーションが取れればもっと解決力が高まるんじゃないのかなと思いました。それでリリースしたのが、音声メッセージのやりとりが可能な3代目の「BoTトーク」です。

本体片面がスピーカーのようなデザインになった第3世代

八木 ボタンを押すと、親から子へ、子から親へボイスメッセージが送れるようになりました。万が一バスに閉じ込められたとしたら、「いまバスに閉じ込められているから助けて」とも言えますし、「お花見つけたよ」など何気ないコミュニケーションにも使っていただいたり、家族のコミュニケーションを少し柔らかくするようなデバイスに発展したかなと思っています。

ーーコミュニケーション機能をつけたとき、苦心されたところはありましたか?

八木 当時、ボイスメッセージ機能を搭載している製品はほかにもあったんですが、片方向しかできなかったり、料金がすごく高いものしかなくて。

我々としてはお金を気にせず、自由に会話していただきたかったので、定額で無制限にできるようなシステムにすごくこだわりました。そこで、音声を圧縮してすごく少ないデータで受信できるようにして、データ量を食わないように低価格で提供できるようにしました。

この機能を「トーク」と名付け、「双方向」「定額」「無制限」でトークをお送りできるように仕上げたのは、我々が初めてでした。それで非常に人気に火がつき、いまとなっては各社「トーク」と名のつく製品が当たり前になったんです。

ーー無制限で定額、子育て中のパパ・ママにとって一番ありがたいです!

八木 そうですね。以前はメッセージを送るのもGPSで子どもの位置サーチするのも、1回約5円かかるのが一般的だったんですが、定額にしたのは我々が初めてでした。

ーーその後の世代では、どのような変化がありましたか?

八木 第5世代からディスプレイがつき、時計やバッテリー残量が見えるようになりましたが、これは我が子きっかけでして。「時計が欲しい」と言ってきたんですよ。スクールバスを利用していて、「時間がわからないと、スクールバスが行っちゃったんじゃないか心配になる」と。「ならば『BoTトーク』に時計をつけてみようか」という会話をしたんです。そこから、ディスプレイの搭載を考えました。 

第5世代以降、ディスプレイに時計や充電残量が表示されるように

八木 ただ、ディスプレイでYouTubeが見れたりゲームできたりすると、子どもの好奇心を変に煽ってしまい、遊んでしまって学校に怒られたり、かえって親御さんも心配になってしまったりするので、見守りに資する機能だけをディスプレイに搭載しました。

ーー子どもの好奇心を変に煽らない、ということが見守りには大切なんですね。

八木 はい。初期のプロトタイプでは、SOSボタンや防犯ブザーもつけていました。しかし、子どもに渡すとすぐに押したがって、いたずらなのか本当のSOSなのかわからなくなってしまったため、ボタンを取り外すことにしました。トークであれば会話の内容を解釈できますが、SOSボタンやブザーの場合、いたずらなのか本当なのか、押された真意はわからないのでかえって不安になってしまいます。そのため、子どもの好奇心を煽る要素は排除していきました。

ーープレーンなデザインは、子どもの性質をとことん突き詰めたからこそだったんですね。その点このディスプレイは、好奇心を煽らず必要最低のみがスマートに搭載されている印象です。

八木 我々は「安心ディスプレイ」と呼んでいるんですが、時計が表示されるほかに、メッセージを送った人の顔が表示されるんです。外出先でパパやママの顔が見られると、子どももちょっと勇気が出るという心理的効果もあるのではと思っています。

メッセージを送ると、ディスプレイに送信者の顔が表示される(画像提供:ビーサイズ)

ーーバッテリー残量の表示は、どういった意図がありましたか?

八木 それまでは親御さんのスマホアプリから確認できるようになっていて、親御さんから子どもに「バッテリーが少なくなって赤くなっているから充電してね」と伝えたり、親が率先して充電していたんです。が、子ども自身で残量が見えるようになると、「減ってきたな」と思ったら自発的に充電するようになり、自立を促すことができるようになりました。

子どもが、子どものためのデバイスとともに一歩ずつ成長していく、というコンセプトにも生きているかなと思っています。

配信元: マイナビ子育て

提供元

プロフィール画像

マイナビ子育て

育児をしている共働き夫婦のためのメディア「マイナビ子育て」。「夫婦一緒に子育て」をコンセプトに、妊娠中から出産・産後・育休・保活・職場復帰、育児と仕事や家事の両立など、この時代ならではの不安や悩みに対して役立つ情報をお届けしています。