日本の身近な食文化である「おにぎり」が海外で広がっている。健康志向の高まりや漫画、アニメの影響、片手で食べられる利便性に加え、具材を変えればヴィーガンや宗教的制約にも対応できる柔軟さが、特にアメリカやヨーロッパで注目されている。
そうした海外需要を取り込み、日本で炊いた米でおにぎりを作り、冷凍して輸出している企業が北九州市にある株式会社のぼるだ。1979年の設立以来、学校給食や弁当の製造・販売を通じて炊飯技術を磨いてきた蓄積を強みに、2023年5月から輸出を開始。初年度比で売上は6.5倍に拡大し、今ではアメリカ、フランス、スペイン、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、イギリス、オランダの8カ国に販売している。そして、さらなる海外需要に応えるため、生産能力を増強した新工場を2026年5月に竣工した。
おにぎりは商社を通じて販売しており、販売国や種類にもよるが、1個600円から800円で購入されるケースも少なくない。一見すると、珍しくもなんともないおにぎりがなぜ、海外で売れるのか。他商品と何が違うのか。同社を訪問し、その理由に迫った。
■なぜ、おにぎりは海外で広がっているのか
おにぎりの広がりを支えている背景には、ここ数年の和食ブームがある。寿司、ラーメン、抹茶、酒など、日本の食べ物が世界的に知られるようになり、各国で日本食レストランも増えている。また、円安の影響で訪日外国人が増えていることも、日本食への関心を高める要因になっている。日本のコンビニでおにぎりを食べ、そのおいしさを知り、現地に帰っても食べたい人が多いことから、日系スーパー、現地のスーパーを問わず、おにぎりの取り扱いが増加しているという。
のぼるの代表取締役を務める川添昌弘さんは、外国人がおにぎりを好む理由を3つ指摘する。
代表の川添昌弘さん(左)と栄養士の大殿千代美さん
1つ目は、漫画やアニメなどの影響だ。「外国では、日本の漫画やアニメが大人気で、日系の本屋に長蛇の列ができることも少なくない。漫画の登場人物がおにぎりをおいしそうに食べるのを見て感化される人も多く、人気の火付け役となっているのは間違いない」と話す。
2つ目は、ワンハンドで食べられること。「外国人はそもそも片手で歩きながら食べるのが好き。アメリカでは、チョコバナナ専門のチェーン店があるなど、ワンハンドで食べられる外食・中食店が増えている。現地のバイヤーと話すと、おにぎりを笹で巻いてほしいなどの声をいただくこともある」。
3つ目は、お米を炊く文化がないこと。「欧米では、お米の炊き方を知っている人はほとんどいない。ご飯やおにぎりは外から買ってきたり、外で食べるものだという考え方が販売を後押ししている。一方、アジア諸国ではお米を炊く文化がそもそもあり、炊かれたご飯に対する価値は欧米に比べると低いと言える。そうした食文化の差異も考えながら、輸出先を検討している」と話す。
■なぜ、えびのおにぎりは受け入れられないのか
一口に輸出と言っても、国ごとに食文化はさまざまだ。食嗜好の違いや宗教的制約、輸出時に守らなければならないルールも違う。のぼるは、何が認められ、何が認められないのか、正確な情報を集めながら輸出先を開拓してきたという。
例えば、アメリカでは、えびを使ったおにぎりは、なかなか受け入れられない。それはなぜか。
「理由は、動物愛護の観点からだ。えびをとるときに使う仕掛け網にイルカやウミガメが入ってしまうと出口がなくて窒息死してしまうことがある。そのため、網に絡まっても出られる出口がなければ、輸入が認められない」。
使用食材に厳しいのはアメリカだけではない。ヨーロッパも同じで、特に動物由来の食品には厳格なルールがあり、そのルールに則る必要がある。
「日本だと、日本人がおいしいと感じる味を追求するが、海外ではそれが通用しない。それは日本の味であって、ここじゃ受け入れられないとまず言われる」。
ここに、日本のおにぎりをそのまま輸出できない複雑な事情がある。
海外の展示会に出店して毎日完売 日本のおにぎりのおいしさ、伝える

