■わさびの量を5倍にしたら、「すごく、いいね!」
そこで重要になるのが、商社のバイヤーなど、現地の食文化や嗜好に精通している協力者の存在だ。
例えば、おにぎりのモチモチとした食感も国によって好みが違うので、バイヤーの話を聞きながら使用米の配合比を変更し、現地の嗜好に合わせたという。
商品開発を担当する栄養士の大殿千代美さんは、「味付けも、日本らしさを大切にしながら、外国人に親しみやすいものになるよう工夫している」と語る。バイヤーの声を参考に、「スパイシー鮭マヨ」や「わさびいなり」などの新商品を開発した。
「アメリカでは、大げさなくらい濃い味、辛い味が受ける。『スパイシー鮭マヨ』は文字どおり辛い鮭マヨ味で、現地販売先で人気上位に入っている。日本人の感覚だと辛みとマヨネーズ、どちらかでいいと思うけれど、国が違えば求められる味も変わる」と差異を説明する。
また、「『わさびいなり』は、アメリカではわさびが人気と聞いて作ってみた。サンプルをバイヤーに送ったところ、これでは刺激が足りないと言われ、わさびを5倍にしたところ、すごくいいね!と言われた。でも、さすがに物価高のアメリカにおいても予算と見合わず、当初の倍の量で商品化している」と、食嗜好に柔軟に対応する工夫を説明した。
そうした濃い味、辛い味の商品を投入する一方で、健康志向の人向けの商品もある。
動物性食材を使用しないヘルシー志向のおにぎり
「欧米では、ヘルシー志向の人も多い。大豆やみそ、生姜といった日本の食材への関心も高い」と述べ、動物性食材を使わない商品として、「オリーブゆず胡椒」「ジンジャーアーモンド」「サフラントマト」「ピカンテ味噌」など、日本ではおにぎりの具材としてあまりイメージしない商品も販売している。
現在、のぼるのおにぎりの商品数は30種類以上を数える。「鮭」「梅」「昆布」など日本でも定番の味だけでなく、北九州市の郷土の食材である「辛子明太子」や「高菜」、鶏肉とごぼうの炊込みご飯「かしわめし」もラインアップ。また、「いなり」や「おはぎ」、「あなご丼」や「牛丼」など、和の軽食も幅広く取り揃えている。
包装にJapanese riceと印字 日本のおにぎりであることをアピール
■解凍後も「炊きたてに近い状態」を再現
そうした、のぼるの商品は何が他の商品と違うのか。
海外では、日本産だけでなく、中国や韓国などで製造されたおにぎりも販売されている。米の値段は外国産の方が圧倒的に安いため、おにぎりの値段も安い。そのなかで、のぼるのおにぎりはどのような強みを打ち出しているのか。
川添さんは、「やはり、一番の違いは再現性。自然解凍あるいはレンジでチンしたときのおいしさが違う。炊いた時のお米の食感や甘みを損なわず、解凍後も『炊きたてに近い状態』を再現できるようにしている」と話す。
冷凍していたごはんやおにぎりを解凍したら、固くなってしまったり、ぼそぼそになって、ばらけてしまった経験をした人も多いだろう。海を越えておにぎりを輸出することを可能にしたのは冷凍技術の進化だが、解凍しても本来のおいしさを保持するのはなかなか難しい。解凍しても米が固くならず、しっとりとした食感を保つ理由を尋ねると、3つの工夫があがった。
竣工したばかりの海外輸出専用工場と、のぼるの皆さん
1つ目は、解凍してもおいしいお米を使うこと。のぼるは約50年間、おいしいお米の炊き方を研究してきた。解凍してもおいしいお米をいくつか探し出し、ブレンドすることで海外輸出に適したお米を使用している。
2つ目は、じっくり強い火力で炊き上げ、保水をしてお米のおいしさをしっかり閉じ込めること。新工場では、1時間で大量の米(1釜15~17kg×約60釜)を均一に炊き上げる高度な自動化システムを導入した。
3つ目は、最新の急速冷凍機の活用だ。ご飯のデンプン構造を壊さず、炊き立ての水分量と香りを封じ込めるレシピと手法を取り入れている。
これら3つの工夫を施すことで再現性を高めたおにぎりは、現地で「本物のおにぎりが来た」といった反応もあるという。なお、商品は自然解凍もできるが、商品裏包装のQRコードを読み込めば解凍方法動画が視聴できる。
裏包装に印字されたQRコードを読み込んで、解凍方法にアクセス
「展示会などで直接お客様に伝えられるときは、レンジ解凍は1000Wなら20秒と伝えている。しかし、同時に『皆さんで一番いい解凍方法を探してみてください』とも伝えている。おにぎりのおいしさは人によっても違う。海苔がパリパリで、中が熱々が好きな人もいれば、温かさよりもしっとりしている方が好きな人もいる。具材によっても好みがあって、明太子は生臭いから加熱する方が好きな人や、マヨネーズを足すなどアレンジを加える人もいる。いろんな食べ方ができるからこそ、こちらで食べ方を指定せずに、自由におにぎりを食べてほしい」(川添さん)。

