企画展『「怖い」本』展示室風景
東京・文京区の東洋文庫ミュージアムで開催中の企画展『「怖い」本』は、「怖い」という言葉から連想される古今東西の書物を集めたユニークな展覧会です。
死後の世界、残酷な刑罰、歴史的な悪人、天災の記録まで。文字や図版に封じ込められた「怖い」本とはどのようなものなのか、展示の見どころをご紹介します。
地獄や九相図が伝える、日本の人々の「死」への眼差し
『往生要集』 源信 985年成立 1210年刊
「この世で悪い行いをした人が死後に責め苦を受ける世界」である地獄。そのイメージは、日本では主に仏教の影響を受けて形づくられました。平安時代に成立した『往生要集』によれば、人は生前の行いによって地獄を含む「六道」のいずれかに転生。また、六道のひとつである人道については、生者と死者のもたらす「穢れ」が説かれており、死はけっして遠い世界の話ではありませんでした。
『九相図巻』(くそうずかん) 鎌倉時代成立か 書写年不明
そんな死生観を視覚的に伝えるのが『九相図巻』です。野外に置かれた遺体が朽ちていく様子を9つの段階に分けて描いた仏教絵画で、5つ目の「噉食相(たんじきそう)」では、腐敗臭に引き寄せられた野生の獣が遺体を食い荒らす場面が生々しく描かれています。どれほど美しい人であっても、命が尽きればこのような姿になる。そうした無常の戒めが、絵の中に込められているのです。
「怖い」は変わる。怨霊から愛すべき妖怪たち
『風流人形の内、一つ家の図、祐天上人』 歌川国芳 1856年
目に見えない何かが災害や病気を引き起こすと信じられていた古代の日本。祟りを避けるため、怨霊を鎮める儀式が各地で行われました。
ところが近世になると、人ならざるものへの眼差しは大きく変わります。死霊も化け物もキャラクター化され、絵本や物語、玩具の題材として人々を楽しませる存在になっていくのです。「怖い」という感覚は普遍的ではなく、時代とともに移り変わるものでした。
『菅家物語』 室町時代成立 江戸時代前期(17世紀)写
菅原道真を主人公とした『菅家物語』は、道真が太宰府で没した後、落雷など京に災いをもたらし、鎮魂されて天神として祀られるまでを描いた作品。しかし現代の目で見ると、怖いというよりどこかユーモラスで、親しみやすささえ感じられます。
右2冊が『絵本百物語』 桃山人撰 竹原春泉画 1841年
江戸後期の浮世絵師・竹原春泉が挿絵を手がけた『絵本百物語』は、40種以上の妖怪が登場する怪談本です。「百物語」とは、人々が夜に集まって怪談を100話語り継ぎ、最後の話が終わると妖怪が現れるとされた遊びのことで、江戸時代に流行しました。
本書に描かれた妖怪たちは恐ろしいというより、ひょうきんで愛嬌があります。「もう妖怪なんて怖くない」と言わんばかりの、ユーモアたっぷりの描写に思わず笑ってしまうかもしれません。
