重症筋無力症は、脳からの指令を筋肉に伝える神経の接合部において、情報伝達がうまく行えなくなることで、全身の筋肉に力が入りにくくなったり、極端に疲れやすくなったりする指定難病です。筋肉そのものや脳の働きには異常がないにもかかわらず、ご自身の免疫システムが誤って神経伝達の受け皿を攻撃してしまう自己免疫疾患の一つとして知られています。
本記事では、重症筋無力症の初期症状としてよくみられるサインや、見逃されやすい特徴、そして病院を受診する際の目安について、診療ガイドラインなどの知見に基づき記載します。

監修医師:
高宮 新之介(信州大学医学部附属病院 呼吸器外科)
昭和大学(現・昭和医科大学)卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、日本外科学会専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事する中、医学博士を取得。昭和大学横浜市北部病院(現・昭和医科大学横浜市北部病院)呼吸器センターを経て、現在は信州大学医学部附属病院 呼吸器外科に勤務。肺がんを中心とした呼吸器外科診療、低侵襲手術、肺がん術後QOL、術前心理状態と術後疼痛に関する研究に取り組む。日本外科学会専門医、日本呼吸器外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。
重症筋無力症でよくみられる初期症状

初期症状は、目の周辺から現れることが多く、しだいに全身の筋肉へと広がる傾向があります。ここでは、大変多くみられる代表的なサインを解説します。
まぶたが下がる
重症筋無力症の初期症状として多くみられるのが、まぶたが垂れ下がってくる眼瞼下垂という症状です。日本神経学会などの専門機関の報告によると、初発症状の多くがこの眼瞼下垂から始まるとされています。人間のまぶたを持ち上げるためには眼瞼挙筋という筋肉が絶えず働き続ける必要がありますが、重症筋無力症を発症するとこの筋肉への神経伝達が滞り、まぶたの重さを支えきれなくなります。
物が二重に見える
まぶたが下がる症状と並んで初期に多くみられるのが、物が二重に見える複視という症状です。人間の目は、左右の眼球を動かす複数の外眼筋が精密に連動することで、焦点を合わせています。重症筋無力症によってこれらの筋肉の力が低下すると、左右の目の動きにわずかなズレが生じ、焦点が合わなくなるために物が二重に見えてしまいます。
表情が作りにくくなる
目の周辺だけでなく、顔全体の表情を作る表情筋に力が入りにくくなることも、重症筋無力症の重要な初期症状の一つです。表情筋への神経伝達が弱まると、顔の筋肉を思いどおりに動かすことができなくなり、自然な笑顔を作ることが難しくなります。笑おうとしても口角がうまく上がらず、不自然な引きつったような表情になります。
話しにくさ、飲み込みにくさを感じる
お口やのどや顎の筋肉に力が入りにくくなる症状を、医学的には球症状と呼びます。この症状が現れると、日常生活のなかで食事や会話に大きな支障をきたし、ときには生命の危険に直結することもあるため大変注意が必要です。
重症筋無力症|初期症状の特徴

筋肉の疲れやすさや症状の現れ方には、一般的な疲労とは異なる明確な特徴があります。症状を見分けるための重要なポイントを解説します。
休むと症状が軽減する
重症筋無力症のもっとも大きな特徴は易疲労性と呼ばれる極端な疲れやすさです。健康な方であれば問題なくこなせる動作であっても、筋肉を繰り返し使ったり、同じ姿勢を長く保持したりしていると、急速に筋肉の力が抜けてだるくなります。これは、神経の末端から筋肉へ向けて放出されるアセチルコリンという伝達物質が、筋肉を使うたびに一時的に枯渇してしまうためです。自己抗体によって受け皿が破壊され減少している状態では、わずかなアセチルコリンの減少でも筋肉に命令が伝わらなくなってしまいます。
時間帯によって症状が変化する
症状の強さが一日のなかで大きく変動することを日内変動と呼びます。多くの場合、睡眠によって十分な休息をとった後の朝や午前中は症状が軽く、活動を通じて筋肉を使い続けた後の夕方や夜になるにつれて症状が重くなります。朝ははっきりと見えていた景色が、夕方にはまぶたが下がって見えづらくなったり、物が二重に見えたりするなどの具合です。

