朝ドラ「風、薫る」第74回【振り返り】
第74回では、山本の死をきっかけに自信を失ったりんの苦悩が、ついに限界へ達した。一方、シマケンはりんの本心を見抜き、長年抱え続けてきた「笑顔という仮面」に寄り添うことで、彼女の心が揺れ動く。看護師としての使命と1人の人間としての心の限界、そして患者の安全を最優先する現実との狭間を丁寧に描き、りんの再生と今後の進路を大きく左右する重要な転機となった。
【以下、ネタバレ】
団子屋で、シマケンは直美にりんの様子を尋ねた。直美は、看護婦と人としての「正しさ」に挟まれ苦しむりんの現状を伝えた。その夜、りんの娘・環(英梨)が「小学校に行って、いっぱい勉強して、女学校に行くの」と将来の夢を語った。りんは笑顔を見せるものの、その胸中はうかがえない。
ある日、りんは新患の宇野(関本昇平)から「ありがとう」と感謝されるが、その言葉が山本の「ありがとう」と重なり、恐怖で体が硬直。今井から「しっかり押さえて」と指示されても力が入らず、動けなくなってしまう。その姿を見た直美は、捨松のもとを訪ね、ある相談をした。
後日、直美に促されて一ノ瀬家を訪れたシマケンは、この家の大黒柱だと気丈に振る舞うりんを見つめ、自身の仕事である書評になぞらえながら静かに語り始める。
「この筆者は、元来、明るいタチではあるものの、おそらく辛い時ほど、そうやって歯を食いしばり、顔に笑い顔の面をつけてきたのであろう。『能面ならぬ、おかめの面なり』。おかめは地域によって諸説あって、しこめというところもあるのだけれど、福女とするところも、豊かな美人の象徴というところもある。その面は筆者にとって鎧のようなものであろう。働くため、母でいるため、大黒柱になるため、笑って、笑って、笑って…」
その言葉は、りんが胸の奥に押し込めてきた思いを揺さぶる。シマケンは「でも僕は、そんな面は取ってほしい」と語りかけるが、りんはなおも笑顔を崩さない。すると環がシマケンがりんをいじめていると勘違いして止めに入り、「何でもない時、お母さん、そういう顔しない。夜遅く帰ってきた時とか、疲れてるのにお料理する時とか、お着物を畳む時、私が泣いた時も、そうやって笑う」と無邪気に口にした。その瞬間、張り詰めていた糸が切れたりんは涙を流し、「お腹が痛いの」とごまかすが、シマケンは環とともにそっと手を握る。りんはシマケンと目を合わせ、「大黒柱も悪くないです。お面だって好きでつけてます」と笑顔を見せた。シマケンも泣きながらほほ笑む。
そんななか、足と腰を骨折していた宇野が突然胸を押さえて苦しみ始める。直美から「りん、脈」と声を掛けられるが、りんの手は震え、脈を測ることができない。今井たちが駆け付け、肺気胸が疑われた宇野は一命を取り留めるものの、呆然と立ち尽くすりんの姿は、心身ともに限界まで追い詰められていることを物語っていた。
詰所。トメと多江が「少し休めば、またできるようになるでしょ」とりんを励ますが、部屋へ入ってきた直美は「りん。看護婦、辞めな」と切り出す。トメは、好きで手が震えるわけじゃないとかばうが、直美は「りんの事情は患者さんには関係ない。外科看護婦取締として、今のりんには看護婦として働いてもらうわけにはいきません」と厳しい表情で言い切った。
朝ドラ「風、薫る」とは?
大関和と鈴木雅という実在した2人のトレインドナース(正規に訓練された看護師)をモチーフにした朝ドラ。激動の明治時代、まったく違う境遇に生まれ、それぞれ生きづらさを感じていた2人の女性が、未開の看護の道を切り開いていく姿を描く。「あなたのことはそれほど」「病室で念仏を唱えないでください」「くるり~誰が私と恋をした?~」などの連ドラで知られる吉澤智子さんが脚本を書き、Mrs. GREEN APPLEが主題歌「風と町」を歌う。

