「昨日見た花の色は何色だったっけ」に込められたメッセージ

展覧会のタイトル『昨日見た花の色は何色だったっけ』。この言葉には、私たちが日々の速さの中で見落としてしまっている、「時間の手触り」への気づきが込められています。
展示作品は、写真とガラスを用いた立体作品や、来場者が参加できるインスタレーション。透き通るガラス、刹那を切り取る写真。それらは、移ろいゆく時間の「遅さ」や、記憶の「曖昧さ」を象徴しています。
坂木氏は、自然が司る24時間や365日という普遍的なリズムを「遅さの象徴」と捉えています。AIがもたらす加速とは対照的な、地球の自転に合わせた本来の時間感覚。作品を通じて、私たちは「効率」というモノサシを一旦横に置き、自分自身の時間を再認識する体験へと誘われます。
ステートメント

昨日を忘れてしまうことを
花は、許してくれるだろうか。
今日がもう終わってしまうという事実を
私は、許せるだろうか。
社会は相対的に速くなっています。人間社会はAIで生産性を5倍にし、YouTubeを2倍速で見る社会です。速いことは悪いことではありません。速くなっていく感覚の裏にあるものはなんでしょうか。私は速さと遅さを対極なものとして扱うのではなく、同じ場所にあるものと捉え、その価値を抱きしめるように捉えたい。それが日が上り沈むことにより生まれた24時間、そして、地球の自転に合わせた365日という時間。これらを司るのは自然だと捉えます。環世界の概念で考えると生物が持つそれぞれの時間の長さは違うとされますが、人間の視点で捉えると、自然が遅さの象徴として存在しているのではないかと考えます。「昨日見た花の色は何色だったっけ」では、遅さ、そして曖昧さを生み出すこと、そしてその時間を認識してもらうことを問の起点として生まれた作品群を展示します。
作家コメント
「みなさま、今回はわたしの作品に興味を持ってくださりありがとうございます。 私は大学時代は京都の美術大学にて、伝統工芸とアートを学び、その後美術館やクリエイティブカンパニーで働きながら、いろいろなアートプロジェクトに関わってきました。そして、友人とスタートアップを立ち上げて「プレーリーカード」をつくり、経営を経てまたアートの舞台に戻ってきました。 私にとっては作品も事業も、社会への『問い』から始まっています。今回の展示では、スタートアップで豊さと同時に劇的な効率化や便利さを追求したからこそ、『遅さ』や『人間の曖昧さ』が持つ、価値を表現の問いとして設定しています。このキャリア、このタイミングで個展を開催するということ。私にとっては挑戦です。人は作り続ける生き物だと信じ、それが一つの人類の喜びであると信じています。初めての個展だからこそ挑めることがあると思っています。社会と、身の回りのみんなと、そして私自身にとって意味のある時間になるよう、準備を重ねてまいります。」
―― 坂木茜音
舞台は横須賀の古民家〈問室〉。場所そのものが「問い」になる

会場となるのは、横須賀の谷戸(やと)と呼ばれる特有の地形にある古民家スペース〈問室 -toishitsu-〉です。
高台へと続く坂道を登り、たどり着いた先にある静かな空間。利便性の高い都心のギャラリーではなく、あえてこの場所を選んだこと自体が、表現の一部となっています。物理的に「時間をかけて足を運ぶ」という行為そのものが、本展のテーマである「遅さ」を体現しているのです。
「本屋でも図書室でもない、“問う”場所」をコンセプトにする〈問室〉の空気感と、坂木氏の作品が共鳴し、訪れる人に深い内省の時間をもたらします。
〈問室 -toishitsu-〉公式Instagram
