“汗が止まる”のは悪循環の入り口―救急医が語る「熱中症」の見逃せない危険なサイン:熱中症特集第1回「症状編」

“汗が止まる”のは悪循環の入り口―救急医が語る「熱中症」の見逃せない危険なサイン:熱中症特集第1回「症状編」

熱中症はかつて、炎天下で活動する若い世代の問題と考えられがちでした。「日射病」などと呼ばれ軽く見られた時期もありましたが、今は重症化すれば命に関わる病気として向き合う必要があります。九州北部などでは2026年7月に入って日中の最高気温が35℃を超える猛暑日が続出。今年も全国的に平年よりも暑い夏になるとの予想が出され、熱中症への厳重な注意が必要です。熱中症特集第1回「症状編」では、順天堂大学医学部附属浦安病院 救急診療科 准教授の石原唯史先生に、熱中症のとき体の中で何が起きているのか、そしてどんなサインを見逃してはいけないのかなどについてお聞きしました。


救急の現場から―ためらわず救急要請を

救急の現場で「もう少し早く気づいていれば」と感じるケースにはいくつかの共通点があります。

一つは、「このぐらいで救急車を呼んでいいのか?」と救急要請をためらってしまったケースです。そしてここ10年ほどで大きく増えたのが、自宅で発症する高齢の人の熱中症です。電気代を気にしてエアコンをつけない、一人暮らしや高齢のご夫婦だけの世帯で発見が遅れる――数日後にお子さんが様子を見に行ったら倒れていた、という患者さんがよく運ばれてきます。基礎疾患がある、室内で一人で過ごしていたりケアマネジャーやデイサービスとの関係が薄かったりして社会的なつながりが不足している――といったことも危険な要因です。

運動や農作業の場では、休憩を取りにくく、軽い症状を我慢して頑張ってしまうことがあります。また、汗で塩分も失われるのに、塩分を補給せず水やお茶だけを飲んでいたために搬送される人もいます。

体の中で起きていること―はじまりから重症化、死に至るまで

熱中症のはじまりは、体温を一定に保つしくみ(体温調節)の破綻です。人の体は暑くなると、皮膚の血管を広げて体の表面に血液を集め、熱を逃がします。さらに汗をかき、その汗が蒸発するときに熱を奪う「気化熱」で体温を下げます。熱中症とは、この放熱が追いつかないほど体に熱がこもってしまった状態だと考えてください。

初期・中期:汗で水分と塩分が失われ、「悪循環」に入る

ふらつきなどの症状が出始める初期は、皮膚の血流が増えたり汗をかいたりして、なんとか熱を逃がせています。ところが中期に進んで汗の出方が乱れてくると、水分と一緒に電解質(体内の水分バランスや神経・筋肉の働きを保つナトリウムなどの成分)が失われていきます。汗によって水だけではなく塩分も同時に失われるため、体の中の電解質のバランスが崩れていくのです。

熱中症の初期では体全体の血液の総量が急に変わるわけではありません。けれども、汗をかくために血液が皮膚の表面へ集まると、その分だけ脳など大切な臓器に回る血液が一時的に減ります。立ちくらみ、めまい、頭痛が起きるのはこのためです。そして汗で失われた水分の補給が追いつかなければ、体内から水分が失われ、体を巡る血液の量そのものが少しずつ減っていきます。すると皮膚の血流や発汗がうまくいかなくなり、体温がさらに上がる――という悪循環に入っていきます。

重症化:体温40℃を超えると細胞が壊れ、多臓器不全へ

体温が40℃、41℃とどんどん上がると、何が起きるのでしょうか。人の細胞をかたちづくる主な成分はタンパク質です。高温になると体の中のタンパク質が変性し、さらに細胞の中でエネルギー(ATP)を作るミトコンドリアという小器官も正常に働かなくなり、細胞そのものがダメージを受けます。

加えて、血液量の低下や、強いストレス・炎症によって放出されるサイトカインの影響で、肝臓や腎臓などが障害され、複数の臓器が同時に働かなくなる多臓器不全に陥ります。さらに、血管の中で血液が異常に固まりやすくなったり、逆に固まらなくなったりする全身の凝固異常(DICと呼ばれる状態)も現れます。

重症の熱中症で亡くなる人は、こうした多臓器不全や凝固異常がきっかけとなって命を落とす、というのが多くのケースで見られる経過です。

配信元: Medical DOC

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