エドスチラドリンはどう働くのか―菊地先生の講演
続いて菊地先生が、泌尿器がんの分野では新しいタイプにあたる、この遺伝子治療の仕組みを解説しました。
これまで膀胱内に薬を注入する治療には、大きな壁がありました。排尿です。薬を入れても1〜2時間ほどで排尿によって流れ出てしまうため、効果を保つには何度も投与する必要がありました。菊地先生は、この問題を解決する発想として遺伝子治療が注目されたと説明します。
エドスチラドリンは、インターフェロンα2b(免疫に働きかけ、がん細胞のアポトーシス[細胞死]や血管新生の阻害などに関わるタンパク)を作る遺伝子を、膀胱の細胞に届ける治療です。遺伝子の「運び屋(ベクター)」には、風邪の原因にもなるありふれたアデノウイルスを改変したものを使います。届いた遺伝子が働くことで、膀胱の細胞そのものが治療成分を作り出す――いわば「膀胱を治療成分の産生工場に変える」という考え方です。
膀胱の内壁にはバリアがあり、ウイルスはそのままでは入り込めません。そこで添加剤(Syn3NODA)がこのバリアを一時的にゆるめ、遺伝子が届きやすいようにします。
「3カ月に1回」という投与間隔に込められた意味
菊地先生は、安全性の工夫も強調しました。運び屋のウイルスは体内で増えない設計(非複製型)で、患者さんの遺伝情報(ゲノム)に組み込まれることもありません(非組み込み型)。そのため治療成分の産生は一時的で、動物実験では8〜10日ほどで低下したとされます。さらに、効果は膀胱の中にほぼとどまり、血液中に出る量はごくわずかで、全身への影響は抑えられていると説明しました。
特徴的なのが、3カ月に1回という投与間隔です。動物実験による投与間隔の検討では、再投与の間隔を30日・60日・90日で比べると、90日空けたときに最も効率よく治療成分が作られました。菊地先生は、投与後の膀胱粘膜の炎症が約90日でほぼ落ち着くためだと解説します。短い間隔のほうがよいとは限らないというわけです。BCG療法が週に1回の通院を要するのに対し、3カ月に1回という負担の軽さは、患者さんにとって受け入れやすい設計だと述べました。
なお、エドスチラドリンの取り扱いには専用の冷凍保管設備やカルタヘナ法(遺伝子組換え生物の使用を規制する法律)に基づく対応が必要です。Q&Aで菊地先生は、大学病院でなければできない治療ではないとしつつ、各施設の体制が整うことが普及の鍵になるとの見方を示しました。

