ワシリー・カンディンスキー《コンポジションVII》(1913年)。油彩・カンヴァス、200×300cm。トレチャコフ美術館(モスクワ)蔵。, Public domain, via Wikimedia Commons.
絵を見ていて、「音楽みたいだ」と感じたことはあるでしょうか。ロシア生まれの画家・カンディンスキーの絵には、そんな不思議な力があります。
名前は知らなくても、カラフルな線や形が画面いっぱいに広がる絵を、どこかで見たことがあるかもしれません。それは偶然ではなく、カンディンスキーは本気で音楽のように絵を描こうとしていました。
《コンポジションVII》。《インプロヴィゼーション28》。《インプレッションIII》。
彼の作品につけられた題名は、どれも音楽の言葉です。
なぜ色と形だけの絵に、音楽の題名がついているのでしょうか。
きっかけは、一晩のコンサートだった
リヒャルト・ゲルストル《アルノルト・シェーンベルクの肖像》(1905年頃)。ウィーン・ミュージアム蔵。1911年の演奏会でカンディンスキーが出会った作曲家。, Public domain, via Wikimedia Commons.
1911年1月2日、ミュンヘン。カンディンスキーは、作曲家アルノルト・シェーンベルクの演奏会に足を運びます。
このとき彼が耳にした音楽は、それまで親しまれてきた音楽とはかなり違うものでした。親しみやすいメロディがない。安定した和音の流れもない。
音楽を支えてきた調和が意図的に崩されており、決して聴きやすい音楽ではありませんでした。
それでも大事な何かが伝わってくる。カンディンスキーは、その演奏に強く心を動かされました。
その体験は彼に一つのテーマを投げかけました。もし音楽にそれができるなら、絵画でも同じような表現ができるのではないか。
コンサートの直後、カンディンスキーは素描を描き始め、それを一枚の油彩画に仕上げます。題名は《インプレッションIII(コンサート)》。彼が体験した演奏会を、そのまま絵にした作品です。
音楽が絵になった一枚
ワシリー・カンディンスキー《インプレッションIII(コンサート)》(1911年)。油彩・カンヴァス、77.5×100cm。レンバッハハウス美術館(ミュンヘン)蔵。1911年1月2日、シェーンベルクのコンサートを聴いた直後に描かれた。, Public domain, via Wikimedia Commons.
まず目に入るのは画面の中央付近にある大きな黒い塊です。これはグランドピアノを意味しています。その前に広がる鮮やかな黄色は客席を埋めた聴衆のようにも、会場いっぱいに響く音のようにも見えます。
カンディンスキーが描こうとしたのは、演奏会の「様子」ではありませんでした。音が色になり、響きが形になった、あの瞬間をまさに「再現」しようとしたのです。
「インプレッション(印象)」という題名の通り、外から受けた刺激をそのまま絵にした作品です。そして作品のタイトルは、自分の絵を伝えるためのメッセージでした。
《インプレッション》は、外の世界から受けた印象をもとにした絵。《インプロヴィゼーション》は、内側から湧き上がるものを即興的に描いた絵。《コンポジション》は、交響曲のように何枚もの下絵を重ね、長い時間をかけて構成する絵です。
題名を見れば、作品の成り立ちを理解できるようになっています。
