見逃してはいけない4つの初期症状とは?
皮膚にかゆみを伴う黒いイボが発生して急増する
編集部
半数が無症状とは驚きです。では、残りの半数の人に表れる、見逃してはいけない体からのSOSサインを教えていただけますか?
舛森先生
初期症状は大きく4つあります。まず1つ目の症状は、「皮膚の黒いイボ」です。
「脂漏性角化症(しろうせいかくかしょう)」と呼ばれるもので、年齢を重ねるごとにだんだんと増えていき、80歳以上の人ではほぼ全員に見られます。老人性疣贅(ろうじんせいゆうぜい)ともいわれます。通常は老化現象の一種なので心配いりません。
編集部
老化現象のイボが、なぜ胃がんと関係するのでしょうか?
舛森先生
注意すべきは、「イボが全身に急激に増えていき、さらに『かゆみ』を伴っているとき」です。急激にイボが増え、かゆみを伴う現象を「レーザー・トレラ徴候」といいます。レーザー・トレラ徴候が見られるときは、内臓のどこかにがんが潜んでいる可能性が高く、特に胃がんが多いと言われています。皮膚を見ることで内臓のがんがわかるというのは非常に興味深いですよね。
「食べるのも疲れる」ほどの食欲低下と吐き気
編集部
皮膚の急激な変化とかゆみは要注意ですね。続いて2つ目の症状をお願いします。
舛森先生
2つ目は「食欲の低下や吐き気」です。胃の中にがんという“異物”ができると、食べ物がうまく消化されなくなるため食欲が落ちていきます。さらに、食べ物が胃の先にある十二指腸へと進んでいかなくなることで、吐き気を催します。
また、胃がんからの出血によって貧血になり、何をしてもだるくて食べるのすら疲れてしまう状態に陥ることもあります。
便の色が黒くなる
編集部
胃がうまく働かなくなることによって生じるのですね。では、3つ目の症状は何でしょうか?
舛森先生
3つ目は「便が黒くなること」です。胃がんになると、胃から出血しやすくなります。この理由は、がん細胞は自分の体をどんどん大きくするため「新生血管(もろくて出血しやすい血管)」を次々と集めるからです。
編集部
血は赤いはずなのに、なぜ便は黒くなるのですか?
舛森先生
胃がんで出血した赤い血は、胃の中の胃酸と反応することで酸化し、黒く変色するからです。そのまま吐けば赤い血が出ますが、腸を通ってお尻から便として排出されるころには黒くなります。
色味の目安としては、「コールタールのような真っ黒な便」と表現されることが多く、医学的には「タール便」とも呼ばれます。したがって真っ黒な便が出ているときは胃からの出血を疑わなければなりません。また、少量の出血が数カ月にわたって長く続いているために「ちょっと黒っぽい便」が続くのも、胃がんの初期症状である可能性があります。
みぞおち付近に違和感・痛みを感じる
編集部
最後に4つ目の症状を教えていただけますか?
舛森先生
4つ目は「お腹の違和感やお腹の痛み」です。より正確に述べると、おへそより上、みぞおちのあたりの違和感(上腹部痛)が表れます。
初期の胃がんではほとんど痛みは起きず、なんとなくの違和感を覚える程度です。しかし、がんの進行に伴い胃が硬くなってみぞおちが圧迫されたり、浸潤(しんじゅん:胃の外側にがんが進行すること)して神経に触れたりすると、明らかなお腹の痛みを感じるようになります。
上腹部痛は、統計的には胃がん患者さんに最も多い症状ではあるものの、明確に痛むころには進行がんになっていることが多く、私自身も痛みをきっかけに胃がんを早期発見できた症例はほとんど経験していません。だからこそ、痛みが出る前の検査が重要なのです。
胃カメラ不要! 予防の第一選択「ピロリ菌除菌」は実際どのくらい効果がある?
編集部
症状が出るのを待っていては遅いことはわかりました。では、胃がんを予防する方法はあるのでしょうか?
舛森先生
胃がんの高い予防効果が期待できる方法が「ピロリ菌の除菌」です。
2025年、Gastroenterology誌に発表されたFordらの大規模メタアナリシス(複数のランダム化比較試験と観察研究を統合した調査)で、ピロリ菌除菌により胃がんの発症リスクが約36%、胃がん死亡リスクが約22%低下することが示されました。
さらに、同年にFront Microbiol誌に掲載されたFuらの別のメタアナリシスでは、腸上皮化生など前がん病変がある人を対象に、ピロリ菌除菌でリスクが45%低下することも報告されています。このように世界規模の医学研究によって、ピロリ菌が明白な胃がんのリスク源であることの科学的根拠が確認されています。「除菌すべきかどうか迷っている」という人の背中を後押ししてくれるといえるでしょう。
編集部
ピロリ菌が胃がんと関連していることはわかりましたが、そもそも私たちはピロリ菌にいつ感染しているのでしょうか?
舛森先生
ピロリ菌は、多くの場合5歳までに感染します。昔は井戸水から感染していましたが、上下水道が完備された現代では、親やおじいちゃん・おばあちゃんの唾液からの家族内感染などが主な原因です。そのため、20代の感染率は10%前後ですが、年代とともに上がり、70代では70〜80%と大きく跳ね上がります(出典:Wang C, et al. Sci Rep. 2017;7:15491)。家族が感染している場合、ご自身も感染している可能性が高いと考えられます。
編集部
大人になってからでも、除菌の効果はあるのでしょうか?
舛森先生
はい、いつからでも遅くありません。20〜30代までに除菌できれば、男女ともに胃がんの発症リスクの大幅減少が期待できるといわれています。年代別では、40代は約90%、50代は約80%、60〜70代でも30〜60%の胃がん抑制効果が報告されています(抑制率の数値は報告によって幅があります)。さらに、一度除菌すれば再感染はほとんどしません。
このほか、胃カメラをしなくても、「ABC検診(ピロリ菌抗体+ペプシノゲン検査)」という血液検査で胃がんリスクの目安を知ることもできます。

