幽霊の白い着物にも意味があった
『幽霊図』(河鍋暁斎), Public domain, via Wikimedia Commons.
足がないことと並んで、日本の幽霊の特徴として挙げられるのが白い着物です。この装いは単に「怖く見せるため」の演出ではありません。
幽霊の白い着物の起源とされるのが、亡くなった人に着せる「死装束」です。古くから白は清らかさや穢れのない状態を表す色とされ、死者があの世へ旅立つ際の正式な装いとして用いられてきました。幽霊が白い着物を着た状態で描かれるのは、死者であることを示す象徴的な表現です。
白い着物の幽霊は、多くの幽霊画に見ることができます。例えば河鍋暁斎の『幽霊図』にも、白い着物を着た女性の幽霊が描かれています。
『画図百鬼夜行 幽霊』(鳥山石燕), Public domain, via Wikimedia Commons.
見る者をぞっとさせる一方で、生前の美しさや気品も感じさせる作品です。モデルは暁斎の亡き妻だったという説もあり、恐ろしさと愛情の両方が感じられる不思議な魅力があります。
また、鳥山石燕の『画図百鬼夜行』に登場する女の幽霊も額に額烏帽子(ひたいえぼし)を付け、白い着物を着た姿で描かれています。夜の墓場で枝垂れ柳の間から現れる様子は、現代の私たちが思い描く、日本の幽霊のイメージそのものです。
幽霊画の主役は、なぜ女性なのか
日本の幽霊画を見ていると、描かれているのは女性であることに気づかされます。怪談でも、『東海道四谷怪談』のお岩さんや『番町皿屋敷』のお菊など、語り継がれる幽霊の多くは女性です。
『百物語 提灯お化けのお岩さん』(葛飾北斎), Public domain, via Wikimedia Commons.
その背景には、当時の社会のあり方が関係していると考えられています。江戸時代をはじめとする昔の日本は男性中心の社会で、女性は結婚や仕事、生活にさまざまな制約を受けながら暮らしていました。
『新形三十六怪撰 皿やしき於菊乃霊』(月岡芳年), Public domain, via Wikimedia Commons.
理不尽な扱いを受けても、自分の思いを自由に表に出すことは簡単ではありません。女性たちの抑圧された感情や深い執着が、死後に怨霊となって現れるという発想は、人々の間で自然と生まれていきました。
一方で、恨まれる側である男性の心理も影響したと考えられています。女性に対しての負い目や罪悪感が「いつか恨みを晴らしに来るのではないか」という恐れにつながり、それが女性の幽霊というイメージを強めたという見方もあります。
『清姫日高川に蛇躰と成る図』(落合芳幾), Public domain, via Wikimedia Commons.
女性の執念深さを象徴する存在として知られるのが「清姫」です。落合芳幾の『清姫日高川に蛇躰と成る図』では僧・安珍への思いが募った挙句、急流を渡ってまで追い続ける清姫の姿が描かれています。
道成寺の鐘に隠れた安珍を、大蛇となった清姫が焼き殺すというのが物語の結末です。本作の清姫は人間に近い姿をしているものの、その表情や姿勢からは恋心が怨念に変わる様子がうかがえます。
