怖いだけじゃない。思わず見惚れる幽霊画
幽霊画というと恐ろしい絵を想像するかもしれません。しかし実際には怖さだけでなく、どこか儚く美しい作品も数多く描かれています。
その代表例が、月岡芳年の『源氏夕顔巻』です。本作は『源氏物語』をもとにした能『半蔀(はしとみ)』『夕顔』を題材としています。夕顔が命を落とした屋敷を訪れた僧の前に、その霊が静かに姿を現す場面が描かれており、恐ろしさよりも幻想的でどこか切ない雰囲気があります。
『源氏夕顔巻』(月岡芳年), Public domain, via Wikimedia Commons.
夕顔は光源氏に愛されながらも、嫉妬に狂った六条御息所の生霊に取り憑かれ、若くして命を落とした薄幸の女性です。原作では生霊の正体は明言されていませんが、後世では六条御息所の怨念によるものと解釈されることが多くなっています。
幽霊画に描かれているのは人を驚かせるための怪物ではなく、愛や嫉妬、後悔、未練といった人間の感情です。だからこそ恐怖だけでは語れない魅力があります。
幽霊と妖怪、何が違う?
「幽霊」と「妖怪」はひとまとめに語られることもありますが、実は異なる存在です。一般的に、幽霊とは亡くなった人の魂がこの世に現れたものを指します。一方で妖怪は人間には説明できない不思議な現象や、それを引き起こす超自然的な存在のことです。
妖怪は「あやかし」や「物の怪」とも呼ばれ、古くは神が姿を変えたものや、自然への畏れを形にしたものだという説もあります。つまり幽霊は「人」、妖怪は「自然や未知の力」に由来すると考えると違いが分かりやすいでしょう。
妖怪たちも江戸時代の画家たちによって個性豊かに描かれ、多くの名作が生まれました。なかでも歌川国芳は、迫力ある妖怪画を数多く残したことで知られています。
『相馬の古内裏』(歌川国芳), Public domain, via Wikimedia Commons.
代表作の『相馬の古内裏』では、平将門の娘・滝夜叉姫が妖術で呼び出した巨大な骸骨が、見る者を圧倒する迫力で描かれています。父の遺志を継ごうと廃屋に仲間を集める滝夜叉姫と、それを討伐に訪れた大宅太郎光国が対峙する場面を描いた作品で、日本を代表する妖怪画のひとつです。
『東海道五十三對 岡部』(歌川国芳), Public domain, via Wikimedia Commons.
また『東海道五十三對 岡部』では、鶴屋南北の戯作をもとにした化け猫騒動が題材となっています。猫の怨霊に取り憑かれた老婆が、若い女性へ襲いかかろうとする緊迫した場面が描かれ、その背後には巨大な化け猫が不気味な姿をのぞかせています。
