血液中のヘモグロビンA1cが高い原因は糖尿病以外にもある?
ヘモグロビンA1cが高くなる主たる原因は、もちろん慢性的な高血糖状態(糖尿病)です。しかし、実は糖尿病以外にも、赤血球の寿命やホルモンのバランス変化によって、数値が異常に高くなってしまうケースがあります。
鉄欠乏性貧血(赤血球の寿命延長)
盲点となりやすいのが「鉄欠乏性貧血」です。体内の鉄分が不足すると、新しい赤血球が十分に作られなくなります。すると、今ある古い赤血球が通常(約120日)よりも長く血液中を生きながらえることになります。古い赤血球は、それだけ長い期間にわたって血液中の糖分にさらされ続けるため、血糖値自体は正常であっても、ヘモグロビンA1cの数値だけが引きずられて高値になってしまうのです。
過度なストレスと睡眠不足
精神的・肉体的なストレスがたまると、自律神経の交感神経が優位になり、副腎から「コルチゾール」や「アドレナリン」といったストレスホルモンが大量に分泌されます。これらのホルモンには、血糖値を上昇させる強い作用があります。また、慢性的な睡眠不足は、血糖値を下げる唯一のホルモンである「インスリン」の効き目を悪化させる「インスリン抵抗性」を引き起こすことが分かっています。これらが重なると、持続的な高血糖状態を招きます。
加齢にともなう身体機能の低下
年齢を重ねるにつれて、私たちの身体機能は少しずつ変化します。膵臓(すいぞう)の細胞の機能が衰えることで、インスリンを分泌する全体の量が減少します。さらに、加齢によって骨格筋(筋肉量)が減少すると、血液中の糖分を消費・取り込む受け皿が小さくなるため、若い頃と同じ食事量であっても血糖値が下がりにくくなり、ヘモグロビンA1cが上昇しやすくなります。
甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)
甲状腺ホルモンが過剰に分泌される「甲状腺機能亢進症(代表的な病気がバセドウ病)」にかかると、全身の代謝が異常に活発になります。このとき、肝臓からの糖の放出が増加したり、腸からの糖の吸収が促進されたりするため、血液中の糖が過剰になって血糖値およびヘモグロビンA1cが上昇します。
慢性腎不全による影響
腎臓の機能が著しく低下する「腎不全」の状態では、エリスロポエチンという赤血球を作るホルモンが不足し、腎性貧血を引き起こします。また、尿毒症による赤血球の寿命短縮や、透析治療の影響など、複雑な要因が絡み合います。これにより、ヘモグロビンA1cの数値が実際の平均血糖値よりも「高く」なったり、逆に「低く」なったりと、検査の信頼性が損なわれるため、他の指標(グリコアルブミンなど)での評価が必要になります。
血液検査の「ヘモグロビンA1c」の異常で気をつけたい病気・疾患
ここではメディカルドック監修医が、「ヘモグロビンA1c」に関する症状が特徴の病気を紹介します。どのような症状なのか、他に身体部位に症状が現れる場合があるのか、など病気について気になる事項を解説します。
糖尿病(2型糖尿病)
日本の糖尿病患者の約9割以上を占めるのが2型糖尿病です。遺伝的な体質に加えて、過食、運動不足、肥満、ストレスなどの生活習慣の乱れが原因となり、インスリンの分泌量が減ったり、効き目が悪くなったりして慢性的な高血糖が続きます。治療の基本は食事療法と運動療法です。これらで改善しない場合は、インスリンの効きを良くする薬、糖の吸収を遅らせる薬、尿へ糖を排出させる薬などの内服薬や、インスリン注射による治療を行います。ヘモグロビンA1cが6.5%以上を記録した場合、あるいは「喉が異常に渇く」「尿の回数が増える」「急激に体重が減る」「疲れやすい」といった症状が出ている場合は、内分泌内科や糖尿病内科をすぐに受診してください。
動脈硬化
高血糖によって血管の壁が傷つき、そこにコレステロールなどが沈着して血管が硬く、狭くなる状態です。ヘモグロビンA1cが高い状態が続くと動脈硬化の進行が劇的に加速し、脳梗塞や心筋梗塞のリスクが高まります。治療には、血糖値の厳格なコントロールに加え、高血圧や脂質異常症の同時治療、禁煙、バランスの良い食生活が必須です。血管の狭窄が進んでいる場合は、カテーテル手術や外科的手術(バイパス手術)が必要になることもあります。ヘモグロビンA1cが長期間高い状態が続いている方や、「階段を上るときに胸が締め付けられるように痛む」「片手足のしびれ」「ろれつが回らない」などの前兆が出た場合は、循環器内科、脳神経内科、または糖尿病内科を受診してください。
バセドウ病(甲状腺機能亢進症)
免疫の異常によって甲状腺を過剰に刺激する抗体が作られ、甲状腺ホルモンが分泌過多になる自己免疫疾患です。代謝が異常に高まることで血糖値が上昇し、ヘモグロビンA1cが高くなることがあります。治療は、甲状腺ホルモンの合成を抑える「抗甲状腺薬」の内服が第一選択となることが多いです。状況に応じて、放射性ヨウ素治療や甲状腺の一部を摘出する手術を行います。ヘモグロビンA1cの上昇に加えて、「しっかり食べているのに体重が減る」「動悸がする」「手が震える」「汗を異常にかかる」「首の前側(甲状腺)が腫れる」といった症状がある場合には、内分泌内科を受診してください。
腎不全
腎臓の機能が正常の30%未満にまで低下し、体内の老廃物を尿として十分に排泄できなくなった状態です。糖尿病腎症の末期症状として発症することが多く、ヘモグロビンA1cのコントロール不良が最大の引き金となります。治療としては、厳格な塩分・タンパク質制限を伴う食事療法、血圧管理、薬物療法を行います。さらに症状が進行して末期腎不全に至った場合は、人工透析(血液透析・腹膜透析)や腎移植が必要となります。健康診断でヘモグロビンA1cの異常とともに、尿タンパク陽性を指摘された場合や、「体がむくむ」「疲れやすい」「息切れがする」といった症状が現れた場合には、腎臓内科や糖尿病内科を受診することをお勧めします。

