仕事の締め切りに追われ、頭痛を市販の解熱鎮痛薬(痛み止め)でしのいでいた30代の男性Aさん。ある日、胃がキリキリと痛んで食欲がなくなり、黒っぽい便が出て外来に駆け込んだところ、診断は「胃潰瘍(いかいよう)」。原因は、「痛み止めの飲みすぎ」だった――。「ロキソニン(ロキソプロフェンナトリウム水和物)」と「カロナール(アセトアミノフェン)」は、熱や痛みのとき頼りになる薬ですが、使い方を間違えると重い副作用が生じる可能性があります。2つの薬は何が違うのか、どんな副作用があるのか、市販薬と処方薬の違いは何か。舛森(ますもり)先生に詳しく伺いました。

監修医師:
舛森 悠(YouTube医療大学)
2019年旭川医科大学卒業後、札幌にて初期研修をおこない、函館稜北病院総合診療科へ。北海道内の3次救急を担う救命救急センターなどを経て、現在は千葉大学大学院 医学薬学府 先進予防医学共同専攻 博士課程にて研究に従事。並行して北海道での地域医療に貢献し、登録者96万人を誇る「YouTube医療大学」を運営。一般社団法人とまりぎケア代表理事、総合診療専門医、新家庭医療専門医、認知症予防専門医、医師会認定産業医。
≫ 【危険】ロキソニンとカロナールの違いを知って欲しいです。【効果・副作用・併用は?】現役医師解説ロキソニンとカロナール、それぞれの特徴と違いは?
編集部
まず、ロキソニンの特徴について教えてください。
舛森先生
一言で述べれば「効果を実感しやすく切れ味がよい」、炎症そのものを抑えてくれる薬です。NSAIDs(エヌセイズ)という、ステロイドではないタイプの抗炎症薬の代表格ですね。
編集部
炎症そのものを抑える、とはどういうことですか?
舛森先生
例えば肩を怪我すると、その部分を治そうとさまざまな成分が集まり、腫れて熱を持ちます。これが「炎症」です。ロキソニンは、この“炎症を引き起こす物質そのもの”を抑えてくれます。炎症を元から叩くので痛みに効きますし、炎症物質が全身を回ることで出る熱も下げてくれます。熱を下げる「解熱」と痛みを止める「鎮痛」の作用があるため、解熱鎮痛薬と呼ばれるわけです。怪我や歯の痛みなど、ズキズキとする痛みに効きやすいですね。
編集部
では、カロナールはどのような特徴があるのでしょうか?
舛森先生
一言で表すと、「比較的副作用が少ない薬」です。市販されているほか、風邪のときに飲む総合感冒薬にも多く含まれています。カロナールは脳の中枢神経に作用して痛みを感じる部分をブロックしたり、体温を調整する中枢に働きかけて熱を下げたりすると考えられています。ロキソニンと違って炎症そのものを抑えるわけではないので、腫れを抑える作用は少ないのが特徴です。
編集部
どちらも本当によく処方される印象があります。理由はあるのですか?
舛森先生
理由の1つは値段が比較的安いことです。保険適用となるため処方薬であれば自己負担額は抑えられますが、受診の手間等も考慮して市販薬とうまく使い分けるのがよいでしょう。
ロキソニンの注意点:胃潰瘍を招く落とし穴
編集部
冒頭の男性は、ロキソニンが原因で胃潰瘍になったそうですね。
舛森先生
はい。ロキソニンを使うとき、注意すべき点がいくつかあります。
まず、ロキソニンで胃腸障害をきたす人は珍しくありません。炎症を起こす物質を抑えると同時に、胃の粘膜を保護する物質の働きも抑えてしまうためです。「薬はリスク」とはよく言ったもので、メリットもあればデメリットもあります。胃粘膜の保護が弱くなると、レモンよりも酸性度が高いとされる胃酸に胃自体がやられてしまい、粘膜がえぐれて胃潰瘍を発症します。冒頭のAさんの黒っぽい便も、胃から出血した血液が胃酸と反応して黒くなったものです。
編集部
ロキソニンの飲み方で気をつけることはありますか?
舛森先生
必ず【食後】に飲んでください。空腹時に飲むと副作用が強く表れやすいためです。実際に「お腹が減っているときに飲んだ方が効く気がする」と空腹時に飲み続けていた患者さんが、ある日突然胃潰瘍で救急搬送されたこともありました。市販薬であっても、かかりつけの先生には普段飲んでいる薬を伝えるようにしてください。
編集部
胃以外に影響はないのでしょうか?
舛森先生
ほかには、腎臓にも負担がかかることがあります。腎臓は背中側にある、そら豆のような形をした握りこぶし1つ分の大きさの臓器で、血液を濾過(ろか)して老廃物を尿から出すフィルターのような役割をしています。ロキソニンは、腎臓への血流を適切に保つ働きをしている物質まで抑えてしまうため、血流が悪くなって腎機能が低下することがあります。
編集部
腎臓への影響について特に注意すべき人はいますか?
舛森先生
注意してほしいパターンが3つあります。1つ目が脱水のとき、2つ目が高齢の人、3つ目がすでに腎臓に障害がある人です。
夏場、屋外でのスポーツ中をイメージしてみてください。脱水でただでさえ腎臓への血流が減っているときに怪我をしてしまった。患部が痛むのでロキソニンを飲んだとします。すると追い打ちをかけるように血流が悪くなり、腎機能が急激に悪化することがあります。
過去には、夏にゴルフで体を痛めてからロキソニンを常用していた60代の男性が、健康診断で腎機能の悪化を指摘され、中止したところ無事に改善した、というケースもありました。
編集部
ほかに見逃しやすい副作用はありますか?
舛森先生
「アスピリン喘息(ぜんそく)」という、アレルギーに似た反応に注意が必要です。アスピリン喘息では、ロキソニンに代表されるNSAIDsを飲んだときに気道が過敏に反応し、息をするとヒューヒューしたり、咳が止まらなくなったりします。成人の喘息患者さんの約10%は、このアスピリン喘息ではないかと言われています。
市販の総合感冒薬(かぜ薬)を飲んだあとに呼吸が苦しくなって救急外来を受診し、検査の結果アスピリン喘息だったようなケースもあります。その人は子どものころに喘息と診断され、大人になってからは治まっていたものの、NSAIDsを飲んだときに限って喘息症状が出ていました。このような人は、NSAIDsを避けることで喘息発作が起こらなくなることもあります。

