これは英国史の絵か、それともフランス革命の記憶か—ドラローシュ《レディ・ジェーン・グレイの処刑》を読む

英国の少女に重ねられた革命の記憶

なぜフランス人画家のドラローシュは、16世紀イングランドの少女王を題材に選んだのでしょうか。

作品が描かれた1833年は、フランス革命から半世紀もたっていない時代です。フランスでは、革命によって国王ルイ16世や王妃マリー・アントワネットが処刑され、政治の名のもとに多くの血が流れました。その記憶は、まだ遠い歴史ではありませんでした。

ナショナル・ギャラリーは、当時のフランスの観客が、チューダー朝の王族たちの運命と、フランス革命で処刑された王族との類似に気づいたはずだと解説しています。

ドラローシュがフランス革命そのものを描いたと断定することはできません。しかし、イギリス史の処刑場面を通して、フランスの観客が自国の革命と王族処刑の記憶を重ねた可能性は十分にあります。

王位をめぐる争い。政治に翻弄される若い命。そして、国家の判断によって執行される処刑。

白い衣のジェーンを見た19世紀フランスの人々は、遠いイングランドの物語だけでなく、自分たちの社会が経験した革命の傷も思い起こしたのかもしれません。

史実を、観客のための舞台へ

ドラローシュは、この歴史を観客が目の前で体験するような場面へと作り変えました。

実際のジェーンの処刑は、ロンドン塔内の屋外で行われました。しかし、絵の背景は暗く閉ざされ、室内の舞台のように見えます。中央には、強い光を浴びた白い衣のジェーン。左には顔を伏せる侍女たち。右には斧を持つ処刑人が配置されています。

ポール・ドラローシュ《レディ・ジェーン・グレイの処刑》 1833年、ナショナル・ギャラリー、ロンドン。斧を持つ処刑人, Public domain, via Wikimedia Commons.

ポール・ドラローシュ《レディ・ジェーン・グレイの処刑》 1833年、ナショナル・ギャラリー、ロンドン。顔を伏せる侍女たち, Public domain, via Wikimedia Commons.

白い衣も、史実をそのまま再現したものでありませんでした。暗い背景から少女だけを浮かび上がらせ、無垢な犠牲者として印象づけるための演出と考えられます。

19世紀のヨーロッパでは、パノラマやジオラマのような視覚的な見世物が人気を集めていました。また、歴史的な場面を俳優が静止した姿で再現する「タブロー・ヴィヴァン」も親しまれていました。

この絵が、歴史画でありながら映画の一場面のように見えるのは偶然ではありません。ドラローシュは人物と光を舞台のように配置し、次の瞬間に何かが起こるという緊張を作り出しています。

準備素描からも、画家が人物の位置や姿勢を細かく検討していたことが分かります。

本画制作のための準備素描, Public domain, via Wikimedia Commons.

ジェーンの手をどこへ伸ばすのか。身体をどれほど前へ傾けるのか。そばの男性は、彼女を支えているように見せるのか、それとも処刑台へ導いているように見せるのか。

本画制作のための準備素描, Public domain, via Wikimedia Commons.

画面の緊張感は、偶然に生まれたものではありません。観客の感情を動かすために、綿密に組み立てられていたのです。

配信元: イロハニアート

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