床をすり減らした処刑画
この絵そのものにも、数奇な運命があります。
19世紀には高く評価されたものの、その後、ドラローシュの歴史画は「感傷的」「芝居がかっている」と見なされるようになり、長く軽んじられました。さらに1928年、テムズ川の氾濫によってテート・ギャラリーの収蔵庫が浸水します。《レディ・ジェーン・グレイの処刑》も損傷し、失われた作品のように扱われました。
ところが1973年、作品はテートの収蔵庫で、巻かれた状態で再発見されます。修復を経てナショナル・ギャラリーで展示されると、再び多くの観客を引きつける人気作となりました。
その人気を伝える、印象的な逸話があります。
人々が絵の前で足を止め続けたため、展示室の床のワニスがすり減ったというのです。さらに、作品を守るために柵を設ける必要もあったと伝えられています。
絵の中で、ジェーンは死へ向かう場所を探しています。その前で、現代の観客たちは足を止めます。床がすり減るほど、何度も、何度も。
「まだ」の数秒を永遠にした絵
ドラローシュが描いたのは、単なる処刑の記録ではありません。
彼はイギリス史を通して、フランス革命後の観客が抱えていた処刑の記憶を呼び起こしました。さらに、サロンのカタログに記された台詞、劇場のような構図、暗闇に浮かぶ白い衣によって、観客を処刑の直前に立ち会わせました。
斧は、まだ振り下ろされていません。
ジェーンも、まだ死んではいません。
ドラローシュは、その「まだ」という数秒間を、絵の中に永遠に閉じ込めました。そして私たちは、彼女が死へ向かう時間の前で、今も足を止め続けているのです。
