和の世界で暮らす猫たち
西洋画に登場することが多い猫ですが、日本画でも猫が主役になることは珍しくありません。和の世界の猫たちはどこか静かで、凛とした佇まいを見せてくれます。
高橋松亭 「白猫」
『白猫』(高橋松亭), Public domain, via Wikimedia Commons.
高橋松亭は明治から昭和にかけて活躍し、衰退しつつあった浮世絵を近代的な芸術として蘇らせた画家です。繊細な線と柔らかな色づかいで、日本の暮らしや自然を多く描きました。
『白猫』では、丸く身を縮めるようにして横たわる一匹の白猫が描かれています。頭には茶色の模様が入り、白い体とのコントラストが印象的です。首元には赤地に白い斑点の入った風呂敷のような布が結ばれており、どこか品のある佇まいとなっていす。
小さく引き締まった瞳は、まさに猫らしい鋭さを残しつつ、何気なくどこか遠くを見つめているようでもあります。静かな空気の中で「視線を感じたと思ったらそこにいた」といった出来事を描いたような、ミステリアスさが魅力の一枚です。
小原古邨 「金魚鉢に猫」
『金魚鉢に猫』(小原古邨), Public domain, via Wikimedia Commons.
小原古邨は明治から昭和にかけて活躍した日本画家で、鳥や動物の姿を繊細な感性で描いたことで知られています。『金魚鉢に猫』で描かれているのは、金魚鉢の中を泳ぐ美しい金魚をじっと見つめる白黒の猫の姿です。
首元には小さな鈴が描かれていることから、おそらくこの猫は飼い猫で、自宅の金魚鉢を前にしているのでしょう。飼い主がほんの少し目を離した隙を狙っているのか、それともただ興味を持って様子をうかがっているだけなのか、物語の想像が広がります。
前傾姿勢で金魚に近づく姿は真剣そのものですが、どこかいたずらっ子のような雰囲気も漂い、猫の狩猟本能を感じられる作品です。
あれ?こんなところにも猫!
名画をじっくり眺めていると、主役とは別の場所に、ふと猫の姿が紛れ込んでいることがあります。奥で気ままに佇んでいたり、隅で何気なく存在していたりと、その登場の仕方はさまざまです。
ピエール・ボナール「欄干の猫」
『欄干の猫』または『手すりの上の猫』(ピエール・ボナール), Public domain, via Wikimedia Commons.
ピエール・ボナールは、19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍したフランスの画家です。日常の一瞬や情景を独特の感覚で切り取る表現方法が特徴で、何気ない場面にも物語性を感じさせます。
『欄干の猫』では屋敷のバルコニー、あるいは庭先のような場所が描かれています。欄干の上には二匹の猫が器用に乗っており、まるでバランスを楽しんでいるかのようです。その表情までははっきりと描かれておらず、猫たちの気まぐれな日常だけが伝わってきます。
猫たちのそばには花の生けられた花瓶も置かれており、少しでもぶつかれば倒れてしまいそうですが、不思議と全体の雰囲気は落ち着いています。そのすぐ手前にはアフリカ系の女性が描かれていますが、猫たちの動きに気を取られる様子もなく、描かれた光景は日常の一部なのかもしれません。
イーヴリン・ド・モーガン 「恋の秘薬」
『恋の秘薬』(イーヴリン・ド・モーガン), Public domain, via Wikimedia Commons.
イーヴリン・ド・モーガンは、19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍したイギリスの女性画家で、神話や寓話を題材にした幻想的な世界観で知られています。
『恋の秘薬』では豪華な家具や書物、道具に囲まれた光あふれる書斎の中で、一人の女性が小瓶からゴブレットへ液体を注いでいます。まさにタイトルにある「恋の秘薬」を調合している最中のようです。その姿からは学者のような知性と、魔女のような神秘性の両方が感じられます。
そんな彼女の足元には、一匹の黒猫が寄り添うように座り、黄色い瞳でこちらをじっと見つめています。まるで彼女を守る相棒のようで、猫も不思議な力を持っているのかもしれません。謎に満ちた空間の中で、見た者の好奇心を湧かせる作品です。
