「独身偽装」で精神的苦痛を受けたとして、シングルマザーの女性(35)が男性(38)を相手取り、慰謝料330万円を求めた訴訟で、名古屋地裁(加藤優治裁判官)は7月21日、121万円の支払いを命じた。
男性は法廷で、女性その家族に謝罪した一方、「将来の婚姻を前提として具体的な協議をした事実はない」などとして、貞操権の権利侵害の程度は限定的だったと主張した。
判決は、女性だけでなく、その長男(15)の精神的苦痛にも言及し、「信頼を裏切られた原告や長男の心の傷は深く、その苦痛は極めて大きい」とした。法廷では何が語られたのか。(ライター・小川たまか)
●「子どもはいるが離婚している」と信じて交際
今年5月の本人尋問で、裁判官に促された被告男性は、原告女性Aさんに向かって深く頭を下げた。さらに傍聴席に座るAさんの長男ら家族にも一礼した。
Aさんは婚活・再婚支援アプリ「マリッシュ」で、2023年4月に被告と知り合った。サービスでは既婚者の利用は禁止されている。Aさんはシングルマザー、被告は離婚済みとして登録していた。
初めて顔を合わせた際も、被告は「子どもはいるが離婚している」と説明。Aさんが「結婚前提でないと交際できない」と伝えると、被告は「最終目標はAちゃんと結婚すること」と応じ、2023年5月から交際が始まった。
●「婚約者」として親族に紹介…長男とも家族のように過ごした
Aさんが交際を決めた理由の一つは、被告が長男に会いたがったことだった。
小児科勤務の看護師である被告は、子どもとのコミュニケーションがうまく、長男ともすぐ打ち解けた。週末ごとに3人で過ごすなど、交際は順調に感じられた。
一方、不審に思うこともあったという。被告の車にチャイルドシートが設置されていたからだ。
被告は「月イチの面会交流のため。いつでも迎えに行けるようにしている」と説明し、Aさんはそれ以上は疑わなかった。
被告は、親権を取れず、養育費は月10万円払っているとも話していたという。
出会いから半年余り経った2023年12月、Aさんの親族との食事会にも「婚約者」として参加。Aさんの弟とLINEを交換したがり、Aさんの両親を含む親族とも積極的に交流したという。
しかし2024年8月、被告の行動を怪しんだ妻の両親が、Aさんを自宅前で待ち伏せしたことで、被告が既婚者だったことが発覚した。

