元分科会長・尾身茂氏が語る新型コロナ…あのパンデミックの“真相”と「今も意識すべき3つのこと」

元分科会長・尾身茂氏が語る新型コロナ…あのパンデミックの“真相”と「今も意識すべき3つのこと」

最大の“葛藤”は東京五輪の「無観客」提言

編集部

感染症対応には次のパンデミックに備えて解決すべき課題があるのですね。なかでも当時を振り返って、先生が一番悩まれた場面はどこでしたか。

尾身先生

東京オリンピック(東京五輪)です。2021年3月の国会で、開催について意見を求められましたが、「開催の是非に専門家が意見を言う資格はない」と述べました。意見を述べたとしても、責任を負えないと思ったからです。

ところが6月になると、その考えを改めることになります。感染力の強いデルタ株が出現し、そのうえ、お盆や3連休、夏休みが重なる季節が到来しました。実際その頃、すでに感染は拡大傾向に入っていました。このまま放置すれば開催の有無にかかわらず、開催日(7月23日)の前後には緊急事態宣言を出さざるを得ないほど医療がひっ迫すると我々は判断していました。

スタジアム内での感染よりは、地域での急激な感染拡大、医療ひっ迫を最小限に収めるための提言が必要になってきました。実際、開会の10日前には宣言を出さざるを得なくなりました。その際、人々にステイホームを求めながら観客が五輪会場に集まるのは矛盾します。

東京五輪の中止を提言することは越権行為であり、長年努力した選手の場を奪うことはできません。それゆえに苦渋の決断として6月18日「無観客」の開催を提言したのです。

記者会見の陰で力を注いだ「分析」と「110の提言」

編集部

尾身先生といえば連日の記者会見を思い出す人が多いですが、あの会見が主な仕事だったのでしょうか。

尾身先生

そう思われがちですが、全く違います。求められて、国会や記者会見で話すなど、前面に立つ機会が多くなりましたが、そうしたことは、我々専門家の本来の役割ではありませんでした。

私たち専門家の最も重要な仕事は、感染状況を分析し、どのような対策が求められるかにつき政府に提言することでした。この提言が政府によって採用されれば、結果的に人々の生活や仕事に影響を与えることになります。合理的で納得感があり、歴史の審判にも耐え得る提言づくりを目指しました。このため私たちのエネルギーの9割以上を提言づくりに向けました。この過程で最も気を付けたことは、提言の根拠になるデータや考えをなるべくわかりやすく示すことでした。ところが我々専門家には得意分野はあっても、誰一人として、万能選手はいませんでした。その上、皆が本業を持っていたので、毎週土曜日、6-7時間、それぞれの考えや知り得た知見をぶつけあう方法しかありませんでした。

ところが、感染状況は異なる変異株の出現などもあり変化し続け、一度提言すれば事足りるというわけにはいきませんでした。その結果、3年半の間に110を超える提言を出さざるを得なくなりました。10日に一度のペースでした。
私たちは、不十分なデータや我々の能力の制約の中でも、できるだけの努力をしてきたつもりですが、我々の提言が完璧だったとは勿論考えていません。私たちの提言がその後検証されることで次のパンデミック対策に少しでも役立てられればと考えています※¹。

配信元: Medical DOC

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