●「書き込みをしたかは覚えていない」
裁判で被告は「書き込みをしたかは覚えていない」と反論した。
さらに、平尾さんが肌の露出の多い服装でDJ活動をしていることなどを挙げ、後遺障害の程度についても争った。
しかし、判決は「社会とのつながりを絶たないために必死に努力している」という平尾さんの陳述を考慮し、被告側の主張を退けた。
佐賀地裁は、なりすましの投稿を女性によるものと認定し、名誉毀損にあたると判断した。認められた損害は、慰謝料160万円、約320万円の逸失利益などを合わせ、500万円を超えた。
磯尾俊明裁判官は、被告が、平尾さんに卑わいなメッセージが殺到することや、周囲から誤解を受けることを「認識した上で」投稿したと認定した。
直接攻撃するのではなく、なりすましを信じた第三者を動かし、本人に被害を集中させる。判決は、そうした構造を悪質なものとして評価したといえる。
●「支援と責任は別だと思っています」
判決は確定した。
だが平尾さんは、いまだに被告本人から謝罪を受けていない。面識もない相手から、なぜここまでのことをされたのか。はっきりと説明を受けないまま、裁判は終わった。
被告は訴訟を通じて、体調不良や無職であることを繰り返し主張していた。損害賠償金を回収できる見通しも、現在のところ立っていない。
平尾さんは言う。 「病気があることや無職であること自体を責めたいのではありません。私自身、この事件によってうつ病になり、支援制度にも助けられています。だからこそ、病気や生活困窮への支援と、他人を傷つけた行為への責任は別だと思っています」
なりすましが投稿されたのは、2日間だった。それを消し、投稿者を突き止め、裁判で責任を認めさせるまでに5年半を要した。
名誉を取り戻すために費やした時間は、名誉を傷つけるために費やされた時間とは比べものにならないほど長かった。

