
ビリヤードの球を撞(つ)くための棒のことを、キューといいます。あの一本がどこで作られているのか、考えたことのある人はそう多くないかもしれません。
その答えのひとつが、群馬県富岡市にあります。

株式会社三木。自社ブランド「メッヅ(Mezz)」と「エクシード(Exceed)」は世界40カ国以上のプレイヤーに使われ、売上の8割以上が海外という、世界に通用するキューメーカーです。

そんな三木のキューづくりや、世界で選ばれるようになるまでの歩みについて、社長の三木一則さんにお話をうかがいました。
「いいキュー」って何だろう
そもそも、ビリヤードキューの「良し悪し」は、どんな要素で決まるのでしょうか。三木さんによると、道具としてのキューには2つの評価基準があるのだそうです。
ひとつは、性能。ビリヤードは、ただ球を穴に落とすだけの競技ではありません。
「日本で一般的にプレイされているポケットビリヤードでは、的球(色球)をポケットしながら、手球(白い球)を次の的球を入れやすくなるようにコントロールすることが基本です。手球は、いつも真ん中を撞くわけではありません。ひねって回転をかけ、前に走らせたり、引いたりするような動きをさせたりし、手球のコントロールをします」

「ちょっと専門的になりますが、『ひねる』ためには、手球の真ん中ではなく、少し外れた場所を撞きますが、例えば手球の左側を撞くと、球は、狙った方向から右方向にズレて飛んでいきます。プレイヤーは、このズレを感覚で狙いを修正して球をポケットしていきます。
このズレる幅をいかに少なくできるキューを作るというのが、キューの性能を測る一つです。これ以外にもキューが生み出すパワー、そして球を撞いた瞬間に手のひらから腕へと伝わる振動や手応え……。そうした、言葉では言い表しにくい感覚的な部分まで、性能として突き詰めているのです」

そして、もうひとつの評価基準は、デザインです。
キューには、細工や意匠で勝負する、芸術品のような世界があります。その世界で三木は、アメリカのカスタムキュー作家たちが集う国際的な展示会に、日本のメーカーとして初めて招かれました。
「基本的には、うちのような会社ではなく、個人の作家が集まる場なんです。大きいところでも4、5人でやっているような人たちばかりでした」
腕一本で勝負する作家たちの中に加わる。 この経験が、見惚れるような意匠を施した上位ブランド「エクシード」につながりました。
ロボットでは測れない、「木」という材料


キューは、手元側の「バット」と先端側の「シャフト」に分かれていて、それぞれをネジでつないで作ります。キューの材料は木材で作られているものが多いですが、近年ではカーボン製キューも一般的になりました。
キューは、硬ければよいというわけではなく、ある程度の「しなり」が重要になります。しかし、しなりすぎれば球はあさっての方向へ走ってしまう。ちょうどいい塩梅が求められる、いわゆる物理の世界です。

物理であるならば、数値で突き止められるはず。そう考えて、産学官で研究をし、自社の工場にロボットを設置して、実際に球を撞かせ、データを取ろうという試みです。
「でも、これはうまくいきませんでした。ある程度の結果は出たのですが、結局、材質が『木』なので個体差があり、数値が安定しなかったんです」
理屈だけでは詰めきれない。だからこそ最後は、人の感覚にも頼ります。
「ゴルフのクラブと似ていますね。キューを開発する際は、プロに試作品を送って、人間の感覚で確かめてもらっています」


材料となる木の仕入れは、すべて三木さん自身が担っています。
「材料の仕入れは、基本的にすべて私がやります。丸太で購入する際は中が見えないので、長年の感で選ぶこともあります」
工場の奥には、アフリカや南米、国内等、さまざまな場所から集まった木材が並んでいました。 赤みのある木、縞の入った木、石のようにも見える木、木の根元にできる希少な「瘤(こぶ)」の木材など。

近年はカーボン製のシャフトも普及し、木とカーボンが併存しています。品質が安定しやすいカーボンには、 たしかに利点があるそうですが、それでも三木さんは、木がなくなるとは考えていません。
「他のスポーツと一番違うのは、自分の手が直接触れるのがシャフトだということなんです。カーボンに対して、木には木のぬくもりがある。私はそれが好きで。完全に100%カーボンへ移ることは、 たぶんないと思っています」

