日本初の技術「妊活タイミングをチェックできるおりものシート」とは。

「妊活おしらせ物質」から、最適なタイミングを把握——。

はたらく女性にとって、妊活は想像以上に大変なこと。産婦人科への通院も、仕事のスケジュール調整が必要なため、容易ではありません。心にモヤモヤを抱える女性が多くいる中、2023年11月に発売されたユニ・チャームのある商品が「画期的」と称されています。

それは、ショーツにつけて過ごすだけで妊活のタイミングが分かる『ソフィ 妊活タイミングをチェックできるおりものシート』。日本初の技術を用いて開発されたもので、SNS上では「すごい技術」と驚きの声が挙がっています。

開発の中心となった人物は、ユニ・チャームの共生社会研究所に在籍する吉政渡さん。約5年かけて市場調査と研究が行われ、商品化された『ソフィ 妊活タイミングをチェックできるおりものシート』は、どのような経緯で生まれたのでしょうか?

1961年の創業以来、生理用品や紙おむつに特化してきたユニ・チャームが初めて「妊活」を応援するアイテムをつくったきっかけ、そして、開発段階でぶち当たった壁を深掘りします。

日本で初めての技術

「ユニ・チャームの生理用品ブランド『ソフィ』は昨年、50周年を迎えました。“女性の生涯に寄り添う”ことをミッションに掲げてきた当ブランドですが、そのミッションをより実現していくためには、これまでの事業領域のみならず、より女性の生活に寄り添った事業を展開する必要性を感じ、妊活市場への参入を決めました」

吉政さんはこう話します。

「妊活」とは一般的に、「排卵日」と呼ばれる“妊娠しやすい時期”に性交渉をすることで、妊娠につなげるための活動を指します。その排卵日の予測を、自宅でセルフチェックできる手段として有名なのが、女性の低温期と高温期を見分けるための目安になる「基礎体温」を毎日記録することと、排卵日予測検査薬を用いることの2つです。


(写真はイメージ)尿中の成分から排卵日を予測する、排卵日予測検査薬。第一類医薬品のため、病院で処方してもらうか、薬剤師による確認がないと購入できない

一方で、基礎体温は起床後すぐに計る必要があり、排卵日予測検査薬も、毎日決まった時間に使うことが推奨されている上、一箱あたり(10本入り)2,000円〜3,000円と決して安くはないのが現状です。

2019年に研究を始め、2021年、市場調査で、妊活中の女性の78%がなんらかの悩みを抱えていること、悩みの大半が妊活のタイミングにまつわるものだと分かりました。

「はたらく女性や既にお子さんがいらっしゃる方にとって、忙しい朝の時間帯に基礎体温を計ったり尿を採取したりするのは大変であり、経済的な負担も大きい。私の所属する共生社会研究所では、日々さまざまな研究や開発を行っており、生理やおりものについても分析しています。そこである時、おりものの中にも、実は体からの大切なメッセージが含まれているのでは?という仮説を立てたのです」

クレインバイオ社とおりものの成分の調査をすると、おりものの中に尿中の成分と同じものが含まれていると判明。これは日本で初めての発見です。

ユニ・チャームはこれを「妊活おしらせ物質」と名づけ、商品化に向けて、本格的に動き出したのです。

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「付着しない」「判定サインが薄い」……立ちはだかった2つの壁

ところが、おりものによる妊活タイミングの把握は業界初の試み。開発段階では、2つの壁が立ちはだかりました。

一つは、おりものの成分がシート内部に入り込みにくいということ。


シート内の反応部分におりものが付着すると、判定サインが現れる仕組み。青いラインが1本なら「今は妊活タイミングではない」、2本なら「妊活タイミング」だと分かる

「通常のおりものシートと異なるのは、シートに内蔵されたテスターに妊活おしらせ物質が付着しなければ、判定サインが現れず意味がないということです。おりものは尿に比べて量が少なく、粘度も高い。最初の段階では、まったく付着せずに絶望しましたね」

開発の中心メンバーは吉政さんともう一名の男性社員のため、実験の手段として、おりものと同濃度の試験液をつくり何度もテストを重ねました。

2歩、3歩進んだかと思えばまた2歩戻る……。こうした試行錯誤を繰り返し、約1年かけて、粘度があっても妊活おしらせ物質をテスターに付着させることに成功。シートに工夫をするなど、ユニ・チャームがこれまで培ってきた技術を駆使したと言います。

またもう一つの壁は、「判定サインが薄くて見えにくい」ということ。妊活おしらせ物質がシートに内蔵されたテスターに付着しても、物質の濃度の関係で、判定サインが十分な濃さで現れなかったのです。

「我々開発メンバーが見て分かる程度ではなく、実際に使う方が、一目見て分かる判定サインの濃さにしなくてはなりません。そこで、着色料の種類を検討した結果、粒子の大きいものを使うことで、十分な濃さのラインを出すことに成功しました」

判定サインの「色」についても議論がなされました。というのも、当初検討されていた判定サインの色は「赤」。これは、テスターに使われている紙素材に、妊活おしらせ物質に触れると赤色に反応する特殊成分が含まれているためです。排卵日予測検査薬やウイルス検査キットの判定サインも、この特殊成分がテスト部分に含まれているために赤色をしていることが多いそうです。


(写真はイメージ)判定サインが赤色のウイルス検査キットの例

ところが社内では、「赤だと経血に見間違う可能性があるのでは?」との声も挙がりました。そのため、ある方法を用いて「青」に変更することに。長年、生理用品を開発してきた「ソフィならではの発想」だと、吉政さんは振り返ります。