現在は芸人に加え、埼玉県三郷市の市議会議員として尽力している、お笑いコンビ「X-GUN」の西尾秀貴。芸人デビューから35年、ここに至るまで紆余曲折の長い道のりがあった。後編では政治家になる礎となった若手芸人時代を振り返ってもらい、1990年代のボキャブラブームの裏側と、相方・さがねの散財伝説を語ってもらった。〈前後編の後編〉
ボキャブラ時代の散財伝説
–––『ボキャブラ天国』(以下、ボキャブラ)で大ブレイクした頃のX-GUNさんの“散財伝説”は今でも語り草になっていますね。外車を買ったのも最初だったし、周りの芸人たちにもおごりまくっていたと聞きます。
西尾秀貴(以下同) それは相方のさがねですね。当時はギャラの歩合が良くて結構もらっていました。海砂利水魚(のちの、くりぃむしちゅー)は給料制だったし、アンジャッシュやアンタッチャブルはまだそこまで売れてなくて。その中でさがねが一応先輩で、お金も1番持っていたんです。
あいつは本当に頭がおかしかった。みんなでパチンコに行くとまず軍資金として全員に1万円を渡すんです。で、なくなったらまたお金をあげて勝ったらあいつが景品を半分もらう、負けたら返さなくていいってシステムだったらしい。
しかもあいつ、同じ給料をもらっている僕にも「欲しい服があったら買ってやる」っておごってくれましたから。おかしいでしょ!
伝説といえば、さがねが後ろポケットから携帯を出したときに1万円札を落としたことがあって。後ろを歩いていた後輩が拾って渡したら「オレから逃げていった金はいらんわ」って、そのままあげちゃったって話もありましたよね。今は大後悔してて「あのときの1万返してくれ」って(笑)。
–––– 一方、西尾さんはどうだったのですか。
僕は近所に住んでた古坂(大魔王)と、あとは後輩芸人や爆笑問題の田中(裕二)さんと遊ぶことが多かった。このチームはナンパもしないし、バンバンお金をつかわない。
遊ぶ場所も田中さんが住んでた阿佐ヶ谷のカラオケ屋さんとかで「今日も歌い上げちゃう?」つって集まるんです。古坂はその頃からテクノ系の曲、僕はトシちゃんとかチェッカーズとか80年代アイドル、田中さんもマッチや80年代アイドルが好きで。
あるとき、田中さんが僕と古坂しかいないのに、ビリー・ジョエルの名曲「Honesty」を歌ってくれたこともありました。めちゃくちゃいい発音で、思わず「誰を口説いてんスか?」って笑いましたけど(笑)。
散財せず、原付で通ったボキャブラ収録
––––ほっこりする平和なチームですね。西尾さんはぜんぜん散財しなかったのですか?
みんなが外車でボキャブラの収録に来てるときも自分だけホンダの50㏄(Dio)でした。そのあとちょっと高級なのが欲しくて27万円のホンダのJOKERって原付を買いましたけど、これが当時の1番高価な買い物。
でも物欲がないわけじゃなくて洋服でも何でも好きなものを買うんだけど、たまたま単価が1万円前後だったっていうだけで我慢していた感覚はなかったですね。
とはいえ売れている状態が続くとも思っていなかった。漫才ブームもそうだけど、ブームがすぎた途端、いなくなった人もいるので現実的に貯金は必要かなと。
そのために貯めるというよりは、使い切る前に次の仕事がくるので結果的に貯まったって感じですけど、あのときの貯金があって本当に助かりました。
––––大金を手にすると、若手なら舞い上がっても当然だと思いますけど、なぜ冷静になれたんでしょう?
爆笑さんの影響が大きいと思います。2人を見ていると売れても散財しないし、特に太田さんは仕事が終わると原稿の執筆があるからってすぐに帰らはるから本当にお金をつかわない。
田中さんもごはんに行けば後輩におごってくれますけど、それ以上のお金をあげたりしない。わかりやすいハイブランドものとかも身につけていなくて、もちろん財布でもバッグでもすごくいいヤツなんやろうけど、これ見よがしなギラギラしたものを持たないんです。そういうとこはカッコいいなって思ったんですよね。
––––ボキャブラブームが去ったあとの焦りはありました?
当時はありました。ギャラも仕事もどんどん減っていく中で、仲良くしていたボキャブラメンバーはそれぞれ上がっていく。「土田、売れたな」とか「くりぃむもネプチューンもMCやってんな」、「でもオレらヤバいよな」って焦っていました。
その中で頼みの綱は古坂で「こんなおもろいヤツでも売れないから、この世界はわからん」って自分を納得させていたんですけど、それを裏切るようにピコ太郎で世界的に売れちゃって……。
でも古坂もくりぃむもあそこまで売れちゃうと逆にこっちは平気になるんですよ。彼らがもっと下のとこで止まっていたら、変に比べて嫉妬心が出るけど、手の届かないとこまでいくと「すごいな、素晴らしいな」って称えたくなる。
で、「オレらをちょっと使ってもらえませんか」って人のふんどしで相撲を取るほうにさっさと切り替えるみたいな(笑)。僕はそれで精神的に楽になりました。

