「手伝うよ」──その一言が、どうしてこんなにつらく聞こえたんだろう。
三浦はるか(34)は、共働きで忙しい毎日の中、優しいはずの夫・亮(36)との間に小さな温度差を感じていました。
仲が悪いわけじゃない。でも、ふとした瞬間に胸がぎゅっと苦しくなる。
ある夜、亮がかけた“何気ない一言”で、はるかは初めて自分が抱えてきた重荷の正体に気づきます。
これは、その静かな気づきの物語です。
「手伝うよ」が優しさじゃなく“負担”に聞こえた夜
残業で遅くなり、ようやく帰宅した夜。急いで作った夕飯の匂いがまだ漂うキッチンには、朝の食器がそのまま。洗濯物はソファの端でしわを刻んでいます。
(今日も全部、私か…)
そんな独り言が漏れたちょうどその時、亮が帰宅しました。
「手伝うよ。何すればいい?」
一見優しい言葉。
でも、その瞬間、はるかの胸に小さな痛みが走りました。
(“手伝う”ってことは、家事はやっぱり私の仕事って前提なんだよね…。
今日がどれだけしんどかったか、気づいてないんだ。)
亮の表情に悪意がないことは分かっている。
それなのに、はるかの心には静かな悲しさがじんわり広がっていきました。
積もっていた違和感が、静かにあふれた
夕飯を食べ終えた亮は「おいしかった」と満足そうに笑い、テレビの前へ。
はるかはひとりで食器を下げ、洗い物をし、テーブルを拭きながら思いました。
(なんで、気づかないんだろう。
なんで今日は“代わろうか?”って言ってくれないの?)
胸の中で積み重なってきた“モヤり”が、静かに膨らんでいきました。
そして限界が近いと自覚したのは、その直後です。
「…ねえ、ちょっと話していい?」
自分の声が震えているのが分かりました。
亮がテレビの音量を下げたその仕草が、一瞬“めんどくさそう”に見えてしまい、心の糸がぷつりと切れました。
「手伝うよって言われるのが、つらかったの。
なんか全部、私の担当って決められてるみたいで…」
言葉が止まらなくなり、涙も止まりませんでした。
亮は驚いたように目を見開き、
「そんなふうに思ってたなんて全然気づかなかった」
と言いました。
その“気づかなかった”が、はるかには一番つらかったのです。
