「リマこそが俺の地だ」
柳原 一つだけ残念だと思うのは、ぼくはバルガス゠リョサは『密林の語り部』(一九八七)のようなアマゾン地帯、密林を描くと面白い作家だと思っているので、最後に密林ものを書いてほしかったなと。
いとう 結局、都会派として終わったんですね。
柳原 やっぱりリマっ子ですよね。
いとう そうか。自分が愛しているところを描いて終わる。
柳原 晩年はずっとスペインに住んでいたんですけど、最後はリマに戻って死にましたからね。
いとう あ、そうなんですね。
柳原 やはり、「リマこそが俺の地だ」
みたいのがあったのかもしれない。
いとう うんうん。それはそうなんでしょうね、きっと。そういうロマンチックさもあるということですね、この人には。
柳原 『沈黙をあなたに』を出す頃にはしょっちゅう病気で入院していたので、これが最後だということを覚悟はしていたのでしょう。当然作家ですから、ほかのアイデアとかもたくさんあったのだろうけれども、仕上げられそうなのはこれだ、もしくは、最後に仕上げるならこれだ、という思いがあったのではないかと思います。
いとう 最後、ロマンチックで都会的な作家だと思われてもいいという気持ちが、少なくともあったのだと思いますね。
柳原 残された資料などは全部プリンストン大学に寄贈されているので、これからはアーカイブでの研究が進み、新たな作品が発見されるかもしれないですね。
いとう それは楽しみですね。
沈黙をあなたに
著者:マリオ・バルガス=リョサ 訳者:柳原 孝敦
2025年12月15日発売2,750円(税込)四六判/304ページISBN:978-4-08-773532-1ノーベル賞作家でありラテンアメリカ文学を牽引した巨匠による、
喜劇と悲劇、そして音楽と本と祖国への愛に満ちた人間賛歌。
クリオーリョ音楽の研究者トーニョが出会った、世界で最も美しいギターの音色。そしてその奏者であるラロ青年の夭折。それらはリマ近郊でつつましく暮らすトーニョの人生をすっかり変えてしまった。彼について、そしてこの国の音楽について本を書かなくては! 使命感に燃えるトーニョだが、その熱意は様々な人を巻き込んでいき……。
2025年4月に逝去したペルーの巨匠、その最後の小説。

