職場でのささいな出来事が、恋のはじまりになることがあります。そして同じくらい、終わりのきっかけにもなるのだと知りました。
「キスしてから言う?」心が追いつかなかった夜
美咲(32)は総務で働く、控えめな性格の女性。褒められると嬉しさより先に不安がよぎり、自分を信じきれないところがありました。そんな美咲にとって、部署の係長である岸本(37)は、どこか特別な存在でした。
「影でマジメに動いてくれる人がいるからこそ職場が回るんだよ」そう言ってくれる上司に出会ったのは、社会人になって初めてだったのです。
プロジェクトの打ち上げ、終電間際の帰り道。指先が触れ、ふいに重なったキスに胸が高鳴りました。怖いほど期待してしまった自分がいたことを、今でも覚えています。
「実は結婚してる」その一言が淡い恋を静かに終わらせた
翌日、会議室でふたりきりになった瞬間、岸本は「…言いづらかったんだけど、実は結婚してる」と言いました。
「キスしてから言う?」気づけば口にしてしまった美咲の言葉は、思ったより静かでした。怒りより先に、現実を理解しようとする気持ちが押し寄せてきたのです。
「気持ちに嘘はないよ」「好きなのは本当」そう続けた岸本の言葉は、美咲の心に優しく触れながら、同時に深く傷つけました。未来の可能性が、薄い紙のように静かにはがれていく感覚がありました。
