
約4億年前の地球に、高さ8メートルにもなる巨大な塔のような生物がにょきにょきと立っていました。
化石から「プロトタキシテス」と名付けられたこの生物は、数千万年にわたって陸上最大級の生き物だったと考えられ、長いあいだ巨大キノコ(菌類の仲間)だと考えられてきました。
化石には、当時の節足動物がかじった跡も残っていています。
しかしイギリスのエディンバラ大学(University of Edinburgh)で行われた研究によって、プロトタキシテスの体内構造や化学成分が現生のキノコ類とは根本的に異なることが分かってきました。
もちろん動物や植物の特徴にも当てはまりません。
そのため研究チームは、この塔は現在のどの生物とも縁がない、すでに絶滅した独立の多細胞生物の1つだったと考えられると結論づけています。生命が一度だけ試して今は消えてしまったこの“別ルート巨大化”の塔は、いったいどのような仕組みで栄養の乏しい原始の大地に立ち続けていたのでしょうか?
研究内容の詳細は2026年1月21日に『Science Advances』にて発表されました。
目次
- 4億年前、木がない時代に出現した巨大な棒状生物
- 内部構造は配管だらけで化学成分は菌とも違った
- 「動物でも植物でも菌でもない」多細胞系統が存在した
4億年前、木がない時代に出現した巨大な棒状生物

私たちは学校で、生き物はだいたい「動物・植物・菌類」に分けられると習います。
最近の教科書では、そこに細菌や古細菌、原生生物も加わって、おおまかに「6つの界」に分けて説明されることもあります。
「地球の生き物は、このどれかに入る」と言われると、世界はきれいに整理されたように感じられます。
ところがプロトタキシテスという化石は、19世紀に発見されて以来、その分類でずっと扱いに困ってきました。
最初は「古代の針葉樹の幹」に見え、その後は「藻の塊」「苔を丸めたもの」「巨大な地衣類」など、いろいろな正体が提案されてきました。
最終的には「中身がチューブ状で、炭素の同位体比も植物らしくないので、巨大なキノコなどの菌類だろう」という説が有力になりました。
4億年前の地上は、足首ほどの高さの小さな植物がまばらに生える世界でした。
その中に、直径1メートル近く、高さ最大8メートルの塔が立っていたのです。
風景として想像すると、低い草原のあいだに、電柱のような太い柱だけがにょきっと並んでいる感じです。
しかも塔の表面には枝も葉もありません。
これが「巨大キノコ」だと言われると、なんとなくそれらしく見えてきます。
ただ、見た目がそれらしいからといって、本当に同じ仲間だと言い切ってよいのでしょうか。
形が似ているだけで、中身のつくりや材料がまったく違う生き物は、私たちの身の回りにも珍しくありません。
長年の推測を決定打に変えるには、「見た目」ではなく「中身」を確かめる必要がありました。
そこで今回研究者たちは、ライニーチャートから見つかった新しいプロトタキシテスの塔を、「中身の配線」と「成分の指紋」の両方から徹底的に調べ直し、本当に菌類と言えるのかどうかを検証することにしました。
もしこの塔が、植物でも動物でも菌類でもない「別ルートの巨大生命」だったとしたら、私たちが信じてきた生命の系統樹は、どんなふうに描き直されるのでしょうか。
内部構造は配管だらけで化学成分は菌とも違った

植物でも動物でも菌類でもない系統の巨大生物は存在したのか?
答えを得るために研究者たちはまず、スコットランドの農地から見つかったプロトタキシテスの大きな塊を、薄いスライスにして観察用の標本を作りました。
この岩はライニーチャートと呼ばれ、昔の温泉のシリカ成分が生き物を丸ごと包んで石にしたものです。
そのおかげで、4億年前の細かい構造までほぼそのまま残っています。
研究チームは、この薄片を共焦点レーザー顕微鏡(レーザーで薄い断面を何枚も撮って立体に組み立てる顕微鏡)で撮影し、塔の中身を三次元で再構築しました。
すると塔の内部は、3種類の太さの管と、小さな斑点状の「髄斑」がびっしりつまった配管迷路であることが分かりました。
最も細い管は髪の毛よりずっと細く、そのまわりを中くらいと太い管が何重にも取り巻いています。
髄斑の中では、これらの管が三次元的に入り組み、分岐したり合流したりしながら、高密度のネットワークを作っていました。
その様子は、肺の中の小部屋や毛細血管がぎゅっと詰まった構造を思わせます。
まさに体の中が「タコ足配線」状態だったわけです。
キノコを調理した人ならば、キノコの断面を見ても、こうした配管のような構造は見当たらないと感じるでしょう。
次に研究チームは、同じライニーチャートに保存されている本物の菌類・植物・節足動物・微生物と、プロトタキシテスを並べて、赤外線分光法(赤外線を当てて、どんな分子がどれくらい含まれているか読む方法)で成分の「指紋」を集めました。
集めたスペクトルを、AIを使った機械学習(境界線を自動で見つける統計的な方法)で解析すると、プロトタキシテスのデータは菌類や植物のグループとはきれいに分かれてしまい、どの既知グループにもきれいには入りませんでした。
特に決定的だったのは、キチンとよばれる分子の手がかりが見つからなかったことです。
キチンは、現代の菌類や節足動物(昆虫など)の細胞壁や外骨格の主要な材料です。
同じライニーチャート中の菌類や節足動物からは、キチンが変化してできたと考えられる信号がはっきり検出されましたが、プロトタキシテスの塔からは検出されませんでした。
さらに研究者たちは、ライニーチャートで既に知られている子嚢菌(しのうきん:カビや一部キノコの仲間)の目印となる色素「ペリレン」の有無も調べました。
その結果、この色素は周囲の泥のような基質には含まれているものの、プロトタキシテス本体には含まれていないことが分かりました。
そこで著者たちは、「この塔は、現代には子孫が1つも残っていない、完全に絶滅した真核生物(核をもつ生物)の独立した系統に置くのが、もっとも素直な解釈だ」と書いています。
塔の中の複雑な配管ネットワークは、おそらくガスや水、栄養の輸送と交換をになう専用のシステムであり、そのような生理機能があったからこそ、プロトタキシテスは栄養の薄い世界でも自立した巨大サイズまで成長できたのではないか、というのが研究チームの見方です。

