
犬と暮らしていると、「今この子すごくうれしそう」と顔を見ただけで分かることがあると思います。
日本の東京大学(UTokyo)で行われた研究によって、ペット犬30に対して大好きなものを見せたとき、オス・メス共通で「口がぽかん(口が開く)」「あごストン(あごが下がる)」「舌ペロ(舌を出す)」「耳キュッ(耳が内側に寄る)」という4つの表情筋の動きが有意に増えることが判明しました。
さらにオスでは「鼻シワ(鼻にシワを寄せる)」「下くちびるストン(下くちびるが下がる)」「ペロッと唇なめ(くちびるをなめる)」「ペロッと鼻先なめ(鼻先をなめる)」という4つの動きが追加で存在していることも分かりました。
こうした「4つ+4つ」の表情パターンは犬がどれくらい楽しめているかを見る手がかりになり、病気やストレスで元気がなくなったときの変化を早めに見つけるヒントにもなると考えられます。
研究内容の詳細は2026年1月7日に『Applied Animal Behaviour Science』にて発表されました。
目次
- 犬の喜び顔を科学する
- 犬の「喜んでいる顔」は4+4で8種類ある
- 犬のしあわせは測れるか?
犬の喜び顔を科学する

犬と暮らしていると、「この子は今うれしい」「ちょっと不機嫌」といった表情の変化に、つい点数をつけたくなります。
特に、おやつの袋をガサッと鳴らした瞬間に見せるキラキラ顔は、飼い主だけが知っている“必殺の1枚”かもしれません。
では、その「ごほうび顔」は、犬によってバラバラなのでしょうか。
それとも、実は多くの犬に共通する“型”があるのでしょうか。
そもそも動物たちは、進化の中で「顔の筋肉」をうまく使うことで、さまざまな気持ちや意図を伝えてきました。
顔の筋肉が骨から離れて皮膚にくっつくように変化したことで、細かい表情が作れるようになったと考えられています。
ウマやウシ、マウスなどでも、好物を見せると耳や口元の特定の動きが増える「ごほうび顔」が報告されており、「報酬刺激(報酬になる刺激)」への反応は、動物界の共通テーマになりつつあります。
犬の世界では、DogFACS(ドッグ・ファックス:犬の表情を細かい動きに分けて記録する方法)が開発され、「眉を上げる」「目を細める」などを番号付きで整理できるようになりました。
しかし、「好きなものを見たときの顔」について、DogFACSを使って系統的に調べた研究、しかもオスとメスの違いや時間変化まで追った研究は多くはありませんでした。
一方で、犬の感情を知ることは、犬の健康にも役立ちます。
人間と同じように、動物は長くストレスにさらされると、好きだったものに興味を示さなくなる「無快感症」を示すことが知られています。
病気や薬の副作用で生活の質(QOL)が落ちていないかを知るには、「ごはんやおやつをどれくらい楽しめているか」という指標が、本当はとても重要です。
そこで研究チームは、「犬が好きなものを見たときに出す表情パターンを、DogFACSを使って定量的に(数字できちんと)示し、自宅でもできる方法としてまとめよう」と考えました。
犬の「喜んでいる顔」は4+4で8種類ある

犬の「好き!」は本当に読み取れるのでしょうか。
その答えを得るために、研究者たちはまず、日本の家庭で暮らすペット犬30頭を集めました。
オス18頭、メス12頭で、チワワや柴犬、トイプードルなどの小型〜中型犬が中心です。
飼い主には自宅で「おすわり」「待て」をしてもらい、その状態で「好きな食べ物」「好きなおもちゃやリード」「何もなし」という3つの条件を別々の日に行ってもらいました。
各回で、犬の顔を正面から1分間、スマホで撮影してもらい、その動画をDogFACSの訓練を受けた専門家が1コマずつ見ながら、口や舌、耳など21種類の顔の動き(アクションユニット)をカウントしました。
解析の結果、オスとメスどちらの犬でも、「好きな食べ物」と「好きなおもちゃ」の2つの条件では、コントロール(何も見せないとき)に比べて、ある4つの動きが一貫して増えていました。
それが、「口がぽかん(口が開く)」「あごストン(あごが下がる)」「舌ペロ(舌を出す)」「耳キュッ(耳が内側に寄る)」です。

さらに解析を進めると、オス犬だけに追加の4つの動きが見えてきました。
「鼻シワ(鼻にシワを寄せる)」「下くちびるストン(下くちびるが下がる)」「ペロッと唇なめ(くちびるをなめる)」「ペロッと鼻先なめ(鼻先をなめる)」がそれです。
オスではこの4つが、食べ物条件とおもちゃ条件どちらでも有意に増えましたが、メスでは条件による安定した差は見られませんでした。
時間の流れも興味深い結果を示しました。
1分間を前半30秒と後半30秒に分けて調べると、オスは共通4つ+追加4つの多くの動きが、前半も後半も続いているのに対し、メスでは多くの変化が主に前半30秒に集中していました。
人間にたとえるなら、「オスはずっとテンション高く騒ぎ続け、メスは前半でバッと盛り上がったあと、さっと気持ちを切り替えて次のことを考え始める」ようなイメージです。
オスのほうが表情の種類が多く長く続いたからといって、「オスが感情豊かで、メスは冷たい」という意味ではありません。
別の研究で、メス犬は「今この行動はしないほうがよい」と判断したときに動きを止める「反応抑制」が得意という報告があるため、メスは不要な表情を早めに抑える戦略をとっているのかもしれません。
一方で、オス犬はこの抑制スイッチがメスよりも弱く、嬉しい表情が比較的長く続く可能性があります。

